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[法律] 取締役の個人資格での出資

Q.我が社のある役員が、知人の設立するベンチャービジネスへの出資を頼まれ、個人の資格で出資しようとしています。そのベンチャービジネスは、高額の配当をうたい文句とし、昨今社会的に注目をあびている業態です。我が社の役員という肩書きをベンチャービジネスの広告に利用される危険もあります。いくら個人資格だといっても、自己の利益を図るため、このような事業に出資することは、昨今の状況から、社会的非難も予想されます。問題はないのでしょうか。

コンプライアンスの確立を

A.ここでいう「出資」の意味が、ベンチャービジネス会社の株主になるという意味であれば、まず、取締役・執行役の競業避止義務違反を考える必要があります。競業避止義務違反となるためには、当該事業が「会社の事業の部類に属する取引」である必要がありますが、本件の場合、ベンチャービジネスとの利益衝突という可能性はありませんし、実質的支配権を有する場合はともかく単に一株主となるだけでは競業取引にはあたらないと考えられます。

 また、出資であれ投資であれ、会社と全く関係がない事業をやっているのだし、会社外で自分のお金をどう運用しようとそれは勝手なのであり、何も問題はないとの考えもあるでしょう。この点、株式会社の取締役は、善良な管理者としての注意義務を負い、また、会社の利益を図るべき任務に違反して、自己又は第三者の利益を追求してはならないという忠実義務を負っています。しかし、特に、会社の信用を毀損するなど会社に何らかの損害をもたらしたり、当該役員が、役員という肩書きを利用して投資を勧誘して積極的な役割を果すなどの特段の事情がない限り、法的責任を問うことは難しいと考えられます。

 昨今、コンプライアンス(法令遵守)が注目されていますが、この意味は、単に法令の文言のみならず、その背景にある精神や、社会の構成員としての企業人、社会人として求められる価値観・倫理観により誠実に行動することが求められていること、さらに企業の社会的責任にも注意することが必要です。そこで、倫理綱領を作成したり、社内教育を徹底することも有効と思われます。本件の場合、その役員と十分に話し合い、会社役員の肩書きを利用しないこと、顧客名簿の流用は絶対にしてはならないことなどを確認しておくべきでしょう。

菊池綜合法律事務所
弁護士 吉野夏己
岡山市南方1-8-14
TEL.086-231-3535

本誌:2006年10.30号 25ページ

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