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くんくん

 小学校教師をしていた母の教え子に「くんくん」と呼ばれた子がいます。本名は「邦ちゃん」。低学年のころ、教室でよくポロッと阻喪をし、それが臭うのでクラスメートたちから「くんくん」というあだ名をちょうだいしたのです。今でいう知的障害児だったのでしょう。

 終戦直後、狭い教室に50人も詰め込まれていた村の小学校。できる子にもそうでない子にも等しく愛情をそそいだ母のクラスで邦ちゃんはからかわれることもイジメにあうこともありませんでした。

 還暦を過ぎ、歯も全部抜けてすっかりおじいさんの風貌になってしまった邦ちゃんの日課は、一日中、村内を散歩すること。ゼンマイで動く茶運び人形のような足取りで交通量の多い県道を歩く姿を見るにつけ、今にも車にはねられそうで心配です。(実際は車の方がヒヤヒヤしながら通り過ぎています)。

 きょうも母を車椅子に乗せて散歩していたら邦ちゃんに出会いました。私が、「邦ちゃん、この人だれか分かる?」と声をかけると「分からあ、岡先生じゃがー」とにっこり。

 今でも母のことを覚えてくれている邦ちゃんは母にとって勲章みたいなものかもしれません。別れ際にどんな言葉をかけてあげたらいいか考えていたら、邦ちゃんに先をこされました。

 「先生、達者でなあ、この辺は車が多いーけー気ぃ付けて!」。

本誌:2005年10.17号 14ページ

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