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獄門島 下

 映画のロケ地を訪ねる「シネマで散歩」、第6回は、前回に続き「獄門島」。不吉な予感に包まれながら島に到着する金田一耕助、そして事件を解決し島を去る彼、そんなシーンが撮影された笠岡市の六島を訪ねた。

              笠岡市六島

(こんな映画)
前回と同じ。

       金田一耕助が降り立った六島・前浦港

 金田一耕助(石坂浩二)は、旧家の跡取り息子の遺書を携え笠岡港から獄門島に向かう。島で彼を待っていたのは世にも怪奇な連続殺人事件だった・・・。
原作となった横溝正史の「獄門島」では島への経路を「船は神島から白石島、北木島へと寄るたびに、降りる客は多かったが、乗る客とてほとんどなかった。そして笠岡を出て三時間、真鍋島を出たころには・・・(後略)」(角川文庫「獄門島」より)と記している。真鍋島の次の寄港地は六島である。横溝は、少なくとも位置関係でいえば六島を「獄門島」に置き換えて創作したようだ。映画「獄門島」でもこれに合わせるように六島でロケが行われている。島を訪ねた。笠岡港発の高速船に乗る。原作と同じように白石島、北木島を経由して真鍋島に着く。ここで六島航路の船に乗り換え、約15分で六島の前浦港に到着。昭和52年のロケで撮影された屋根瓦の連なる港町の風景がほとんど変わらない姿のままで目の前に広がっている。港近くにある前畑商店を訪ねる。店
主の前畑繁樹さん(69)と居合わせた三宅美津志さん(59)に話を聞い
た。

DVDから抜き出した金田一耕助到着シーンの写真を見てもらう。「あ、この桟橋、今もあそこにあるよ。少し改修されたがね」、「ここに映っているのは以前の消防機庫だね。今は新築されている。ほらあの桟橋のすぐそばにある」などと話はつきない。時代の流れに翻弄されながら、この島は豊かでゆったりとした時間を刻んできたようだ。

桟橋に行ってみる。雁木の部分は少し改修されているが、確かにここに石坂金田一が降り立ち、そして事件を解決させて島を去る日、お七(坂口良子)や清水巡査(上條恒彦)らと別れを惜しんだ場所だ。彼らのバックに映っていた香川県の荘内半島と紫雲山が今日も春霞の中、瀬戸の海に浮かんでいる。

       島のシンボル、六島の灯台へ行く

六島は、岡山県最南端の島で、周囲は約4,5キロ、人口80数人の小さな島。休校していた小学校が、平成19年に再開し、現在4人の小学生が毎日元気に通学している。

六島に来たからには島のシンボル、六島灯台を見ずには帰れない。前畑商店の横にある案内看板に従って灯台をめざす。港町特有の家並みの中を走る狭い道と石段を右に左に回りながら上っていく。左右に水仙の群生地がある。残念ながら開花の時期はとっくに過ぎている。一面に漂う甘い香りと斜面を覆う白色のやさしい花の絨毯を頭に描きながら上っていく。

石段を上りきると今度は、生い茂った林の中に伸びている細い道をしばらく歩く。右手に急な階段が見えてきた。それを上りきると真っ白な灯台が目の前に。ここまで約15分。六島灯台は大正11年(1922)に設置され、昭和59年(1984)改築された。

灯台の前の広場で、定期的にここにやって来ては周りに自生している水仙の手入れなどをしているという中尾重規さん(58)に出会った。「今日は春霞のせいで遠くの方が見えないけれど、スカっと晴れた日の眺めは素晴らしいですよ」と島育ちの中尾さん。しかし、私には270度の角度で広がっているこの風景は、春霞など関係なくいつまでもいつまでも見つめていたい絶景だった。「正面に荘内半島、その左が粟島、そして高見島、佐柳島、手島、真鍋島・・・。高見島の向こうに瀬戸大橋もうっすらと・・・」。中尾さんの声は耳に入ってくるが私は目の前の風景に見とれ、じっと立ちすくんでいた。

港に帰り、金田一が降り立った桟橋からもう一度前浦の街並みを眺める。恋とは無縁の金田一だが、「獄門島」では、島の旧家の娘・早苗(大原麗子)に恋をする。ここは、金田一が唯一心魅かれた人が住んでいた島である。おどろおどろしいストーリーとは無縁の豊かで静かなこの島は、「灯台」と「水仙」に「金田一が愛した女(ひと)が住んでいた島」をキャッチフレーズに付け加えてほしい。
                             (おかやま魁 鷹取洋二)
「獄門島」
 ・昭和52年(1977)、東宝作品。 監督/市川 崑
 ・DVD発売中/発売・販売元:東宝 ¥5,040(税込)

本誌:2010年7.5号 23ページ

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