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第44回思い出のメロディ

 お盆に何気なしにテレビを見ていたら毎年恒例のNHK「思い出のメロディ」をやっていました。司会の市川猿之助(亀治郎改め)のまじめくさった顔がおもしろい。「人形の家」(弘田三枝子)、「別れのサンバ」(長谷川きよし)など例年になく選曲にセンスが光っていました。

 私の学生時代、ぴちぴちきゃぴきゃぴだった弘田三枝子が今ではNHKホールの豪華な舞台が痛々しく感じられるほど容姿と声が衰え、私はそこに同じ時代を生きてきた自分自身の衰えを重ねてしまいました。

 ところが同じ老いでもド迫力の老い、すさまじい生き様の集大成というべき老いの姿があることをこまどり姉妹によって知らしめられました。舞台に登場した彼女たちはもう本物のおばあさんです。1938年生まれなので今年74歳。まさに壁のように分厚く塗った化粧姿を見て何故かギリシャの廃墟を連想しました。

 デビュー当時あれほどきれいなハーモニーを奏でた艶と伸びのある美声は今ではすっかり失われていました。しかし心が激しく揺さぶられるのです。この感動はいったい何なのか、ウィキペディアを参照してみたらその秘密が少し分かったような気がしました。北海道の炭坑労働者の極貧家庭に生まれ、樺太に渡り、戦後は苦しい家計を助けるために姉妹で門付けをして日銭を稼いだそうです。

 デビューしたあともストーカー少年に舞台の上で刃物で刺されたり、大病を患ったり、まさに波瀾万丈の歌手人生です。

 「私たち、歌が好きで歌手になったんじゃないこと、皆さんご存じでしょうか?」と語る姉妹。生活のために三味線片手に歌う以外に道がなかったにしても生涯歌を捨てずに生きてきたこと、それしか選択肢がなかったことが厚化粧の下に魂の演歌歌手をはぐくんだのでしょう。

 坂本冬美の「岸壁の母」。スランプに陥り歌えなくなった坂本が二葉百合子から一子相伝のように引き継いだまさに命の一曲にはひっくり返りそうになりました。目が完全にイッテいて神憑り状態。いままで坂本冬美は美貌で歌がうまい(だけの)歌手だと思っていたのが大変な間違いだと気づかされました。

 体をよじり、声(=魂)を絞り出す演歌はすごい。これぞ芸であり日本の宝だと認識した次第です。

本誌:2012年9.3号 13ページ

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