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巻頭特集外国人が救う人手不足の現場

技能実習制度改革で進む健全化 問われる受け入れ態勢 企業が選ばれる時が来る

  • 熱心に働く技能実習生(タナカマシーナリー)

 人手不足が深刻だ。事業自体は堅調なのに規模を縮小せざるを得ない企業が現れるなど、地域経済を揺るがす構造的な大問題となりつつある。そんな中、増加しているのが外国人労働者。特に技能実習生の伸びが顕著で、外国人労働力に頼らざる得ない状況が浮き彫りになっている。昨年11月、その技能実習制度が大きく変わった。受け入れの窓口で実習を監督する役割も担う監理団体が許可制となったほか日本人労働者との均等待遇を明確化するなど、健全化を図るもので、従来取りざたされていた一部の低賃金かつ劣悪な環境での労働を排除。外国人材活用の一般化へ追い風となる可能性が高まっている。

ひっ迫する労働力確保

 昨年12月の県下有効求人倍率はバブル期並みの1.87倍を記録。岡山県商工会議所連合会が実施した採用動向調査では、採用活動を行った企業(285社)のうち、採用できなかった企業が25.6%に上った。一方、岡山労働局が1月29日に発表した昨年10月末時点の外国人雇用状況によると、外国人労働者を雇用する事業所は2007カ所で前年同期比14.9%増加、外国人労働者数は1万3727人で同21.7%増。特に技能実習生はそのうち48.4%を占める6645人で同21.8%増、5年間で65.7%増と急激に増加している。

 精密機械加工のタナカマシーナリー㈱(総社市)では、毎年3~4人を新卒採用していたが、近年は困難になり今年はようやく1人。中途採用でも人が集まらず、外国人の雇用を積極化している。現在グループで期間の定めのある技能実習生18人、要件を満たす技術者など長期間在留できる高度人材6人を雇用。来年度には技能実習生を9人増員、高度人材の採用も増やし外国人材を40人に拡大する計画だ。「受注が増えて人が必要なのに数百万円かけて求人しても1人も採用できないような状況。当初受け入れに戸惑っていた日本人社員も、外国人社員がいないと仕事が回らないと話している」と田中秀明社長は状況を説明する。

 企業の外国人材に対するニーズの高まりに、金融機関も注目している。㈱トマト銀行(岡山市)は取引先企業の支援で行っている次世代経営塾で、昨年11月8~11日に初の外国人材をテーマにした海外視察としてベトナムを訪問した。次期経営者ら18人が㈱グロップ(同)の現地子会社が提携する語学学校で技能実習を控え学ぶ若者たちの様子や内山工業㈱(同)の現地工場を視察し、これまでになく盛んに意見を交換していたという。同行では営業店から1日40件、多い時で200件もの企業からの相談事案が寄せられるが、その1割は人材関係。「需要の増加に新工場の建設や販路拡大を図ろうにも、人材が確保できずに断念せざるを得ないなど、人手不足が業務を圧迫している状況がみられる。看過できない問題」と支援を強化していく考えだ。

 こういった状況の中、人材サービス事業者も技能実習制度に注目し監理団体に相次ぎ参入。グロップがグローバルウェイ(協)、㈱キャリアプランニング(同)が(協)国際ビジネスサポートを受け入れ企業とともに立ち上げている。

健全化が受け入れを促進

 しかし一方で、差別的な待遇や失踪などネガティブなイメージも強く、同制度の活用に踏み切れない企業も多い。その状況が昨年11月の新たな技能実習法の施行で大きく変わろうとしている。

 同改革のポイントは制度の適正化と拡充。「適正化」では監理団体を許可制としたほか、実習実施者(受け入れ企業)も届け出制になり、実習生ごとに作成する技能実習計画についても個別に評価を受ける認定制とするなど、チェック機能を強化。運営面でも受け入れ企業への監査などが適正に実施されているかを確認する外部役員または外部監査人を置くことを義務付け、人権侵害などに対する罰則も設けた。待遇面では、日本人と同等な報酬などを実習計画認定の条件とするなど改善が図られている。

 「拡充」では、細かく設定された要件を満たす優良な受け入れ企業、監理団体に対し、受け入れ人数枠を最大6倍に拡大、実習期間も3年間から5年間に拡大する優遇措置を設けた。また施行と合わせ、対象職種に介護が追加され、福祉の現場での深刻な需給ギャップ解消に期待が寄せられている。

 岡山県中小企業団体中央会によると1月末時点の許可制への移行状況は、受け入れ実態のある約80団体のうち53組合が許可を取得。そのうち約20組合が優良認定を受け、今後も増えていく見込みという。

 この改革を現場はどう受け止めているのか。岡山県内を中心に幅広く展開し、昨年、実習開始前講習のため60人収容の寄宿舎付き教育センターを整備するなど、受け入れ態勢の充実に努めてきた監理団体の岡山産業技術(協)の宮本誠一理事長は、「事務作業の増大でコストは上がるものの、求められる基準を満たすこと自体は、これまで誠実に業務を行ってきた団体にとっては難しくない」ときっぱり。許可制で問題のある団体が排除されるのはもちろん、具体的な指標で点数付けされる優良認定により、「業界の健全化が進む」と考えている。

 監理団体に参画するグロップの倉田俊男副社長も、「健全なイメージが浸透すれば、よりすそ野は広がる」と予測。より高い信頼を得るために、人材サービスで培ってきた労働者と企業の橋渡し役としてのノウハウを生かす考えだ。

「安い労働力」は大間違い

 一方、受け入れ企業にも制度の理解が求められている。宮本理事長は「もし、問題のある組合員(受け入れ企業)があれば、ほかの組合員にも迷惑がかかる。監理団体は退会を求めるなどの対応を取らざるを得ない」と指摘する。

 トラブルの原因として監理団体が共通して指摘するのが技能実習生に対する「安い労働力」という誤った認識だ。今や日本人と同等の待遇が求められている上、人材派遣と同様に管理コストが上乗せされるため。年間コストは高卒新卒者を雇用した場合と同程度という。それでも企業が同制度を活用するのは、確実に人材を確保できるという何物にも代えがたいメリットのためだ。

 制度の定める基準を満たすことは当たり前だが、何より活躍を期待するなら技能実習生のモチベーションをいかに高めるかが重要。軽装・電気工事、金属加工の日光計装㈱(倉敷市)は、日本人社員と同様に制度に定めのない賞与を支給。帰国時には数十万円の退職金も渡しているという。そのかいあって会社を盛り立てようという意識が芽生え、短期間で技能も習得。高度なファイバーレーザー溶接などの作業もこなすようになっているという。

 タナカマシーナリーでも、実習期間を終え帰国した後、インドネシア工場で雇用。働きながら通える近隣大学の夜間課程への進学をサポートし、学費まで支給している。もちろん、卒業後高度人材として再び雇用するための取り組みだが、意欲はおのずと高まる。

 そのほかにもレクリエーションを通してコミュニケーションを深め、孤立を防ぐなど、技能実習生が働きやすい環境づくりに取り組んでいる企業は多いという。

求められる意識改革

 そもそも、「日本人が辞めていくような会社は、技能実習生を受け入れてもうまくいくわけがない」と宮本理事長。しかも今や技能実習生もスマートフォンを持つ時代。同国人同士の情報交換は活発で、待遇の悪い企業の情報は瞬く間に広がってしまう。また送り出し国の経済成長が急速に進む中、給与、技術水準にかつてほどの大きな開きはなくなってきており、今後ますます受け入れ企業を見る目はシビアになっていくという。

 リーマンショック後の派遣切りが社会問題となったことへの反省から国、業界がコンプライアンスを高めてきた人材派遣と同様に、健全な雇用・労働形態を実現しようとしている技能実習制度。受け入れ企業の意識改革こそが、求められている。

 一方、同制度への過度な依存には問題もあるという。田中タナカマシーナリー社長は、「技能実習生にしろ高度人材にしろ、移住でない限りいずれは国に帰っていく。技術が自社に残らない」と危惧。今足りない人材の確保だけでなく、技術継承など長期的な視野で外国人労働者をとらえること今後の課題だ。

本誌:2018年2.19号 4ページ

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