WEB VISION OKAYAMA

特集解説 平成30年度税制改正大綱

個人所得課税の見直し 事業承継税制を拡充

 平成30年度税制改正大綱は、平成29年12月22日に閣議決定され「平成30年度税制改正大綱」として公表された。今回の改正は、働き方の多様化を踏まえ、様々な形で働く人をあまねく応援するなどの観点から個人所得課税の見直しが行われた。また、デフレ脱却と経済再生に向け、賃上げ・生産性向上のための税制上の措置が講じられ、さらに、中小企業の代替わりを促進する事業承継税制の拡充が行われた。主な改正内容を中心に、税理士法人石井会計の石井栄一代表に解説してもらった。

経営者にとってのポイント

(1)賃上げに取組む企業への支援強化

 企業収益を賃上げに向かわせるため「所得拡大促進税制」が見直され、賃金を引き上げた企業の法人税を減らす制度が拡充される。
中小企業者等については、賃上げ要件が簡素化され、教育訓練費等の要件を満たす場合は税額控除率が上乗せされる。また、大企業の制度との選択適用が可能である。
 大企業については、賃上げ要件が簡素化され、国内設備投資要件が新たに追加される。また、教育訓練費の要件を満たす場合は税額控除率が上乗せされる。適用要件等については以下の通り。
 平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度について適用される。



(2)企業の設備投資を後押し
 あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などの新技術に対応した設備に投資をした企業の法人税を減らし、技術革新を促し生産性向上を後押しする。
 適用要件は、青色申告書を提出する法人で、革新的事業活動による生産性の向上の実現のための臨時措置法(仮称)の制定を前提に、革新的データ産業活用計画(仮称)の認定を受けたものが、同法施行日~平成33年3月31日中の間に、ソフトウェアを新設又は増設した場合で一定の設備を取得等して事業の用に供した場合にはその取得価額の30%の特別償却又は税額控除の選択適用ができる。



(3)固定資産税の減税
 中小事業者等が、革新的事業活動による生産性の向上の実現のための臨時措置法(仮称)の制定を前提に、先端設備等導入計画(仮称)に記載された一定の機械装置等で、生産、販売活動等の用に直接供されるもののうち、同法施行日から平成33年3月31日の間に取得されたものに係る固定資産税について、課税標準を最初の3年間、価格にゼロ以上2分の1以下の範囲内において市町村の条例で定める割合を乗じて得た額とする措置が創設される。
 これに伴い、中小企業等経営強化法に規定する認定経営力向上計画に基づき取得する一定の機械・装置等に係る固定資産税の課税標準の特例措置は、平成31年3月31日をもって廃止される。



(4)収益の認識等
 返品調整引当金は廃止される。現在適用している法人については、平成33年3月31日までに開始する各事業年度については現行どおり認められる。平成33年4月1日から平成42年3月31日までの間に開始する各事業年度については、損金算入限度額に対して1年毎に10分の1ずつ縮小した額の引当てを認める等の経過措置が講じられる。
 また、長期割賦販売等に該当する資産の販売等に関する延払基準も廃止される。現在適用している法人については、平成35年3月31日までに開始する各事業年度については現行どおり認められる。 平成30年4月1日以後に終了する事業年度において適用をやめた場合には、繰延割賦利益額を10年均等で収益計上する等の経過措置が講じられる。


事業承継税制のポイント

事業承継時の税金負担が緩和
・概要
 中小企業の世代交代を促進するための事業承継税制が使いやすくなる。事業承継税制は会社経営者から親族が株式を取得する際の納税が猶予される制度。ただし、要件が厳しく適用後のリスクも高いことから、利用は積極的には行われていないのが現状である。今回の改正では適用要件が大幅に緩和され格段に利用しやすくなる。

・改正後の内容
 特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与・相続・遺贈(贈与等)により特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得をした全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税・相続税の全額について、特例後継者の死亡の日等までその納税が猶予される。

・実務上の留意点
 実務上の留意点としては、①取得した全株式の贈与税・相続税の全額が猶予されること、②複数の後継者への贈与が可能となること、③雇用確保要件が大幅に緩和されるため、従業員数が少ない企業でも適用を受けやすくなること、④相続時精算課税制度が親族外の後継者でも利用できること、⑤平成35年3月31日までに特例承継計画を都道府県へ提出する必要があること等があげられる。

・適用時期
 平成30年1月1日から平成39年12月31日までの贈与等について適用される。



資産家にとってのポイント

(1)不動産の減税制度が厳格化
 被相続人の自宅を相続した際に利用でき、相続税が少なくなる制度である「小規模宅地等の特例」のうち、いわゆる「家なき子特例」が見直される。具体的には、特定居住用宅地等の別居者要件のうち、「相続開始前3年以内に、相続取得する者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する国内家屋に居住したことがある者」「相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者」が除外される。
 また、貸付事業用宅地等のうち、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等が除外される。ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者には、適用されない。
今回の改正は、意図的に特例を適用するケースを認めないものとなっており、今後は今まで以上に実態が重視される。
 平成30年4月1日以後の相続・遺贈に適用される。

(2)一般社団法人を利用した節税スキームへの課税強化
 特定一般社団法人等の役員が死亡した場合に、当該特定一般社団法人等に相続税が課税される。一般社団法人は登記だけで設立でき、これを利用した相続税対策が行われてきたが、行き過ぎた節税との批判もあり、今後はそのスキームが封じられる。改正後の適用要件等は以下の通り。


 一般社団法人等に財産の贈与等があった場合の贈与税等の課税につき、贈与税等の負担が不当に減少する結果とならないものとされる現行の要件(役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定款の定めがあること等)のうち、いずれかを満たさない場合に贈与税等が課税されることとし、規定が明確化される。
 平成30年4月1日以後の相続・遺贈に適用される。


その他のポイント

(1)高給会社員は増税へ
 フリーランスで働く人の増加に伴い、働き方による控除の差を縮小させるため、年収850万円以下の会社員は給与収入から差し引ける給与所得控除額が一律10万円引き下げられる。850万円超の会社員はさらに引き下げられ、そのかわりだれでも使える基礎控除額が一律10万円引き上げられる。そのため年収850万円以下の会社員は税額への影響はないが、年収850万円超で増税となる。なお、基礎控除額は所得金額が2,400万円を超える場合は、その所得金額に応じて控除額が逓減し、所得金額が2500万円超で消失する。
 また、年収850万円超でも障害者、子育て世帯が増税とならないための措置として、給与等の収入金額(1000万円を超える場合には、1000万円)から850万円を控除した金額の10%を給与所得の金額から控除する仕組みが創設される。こちらの控除は年末調整において適用できる。
 平成32年分以後の所得税について適用される。


(2)老後の生活へも影響
 給与所得者と同様、年金受給者も高所得者については増税となるよう見直しが行われる。公的年金控除は高齢者の税負担を軽減するため、給与所得控除よりも手厚くなっているが、優遇されすぎているとの指摘もある。
 今回の改正内容は、公的年金等控除額が一律10万円引き下げられ、公的年金等の収入金額が1000万円を超える場合の控除額について195万5千円の上限が設けられる。公的年金等の雑所得以外の合計所得金額が1000万円を超え2,000万円以下である場合の控除額が一律10万円、2000万円を超える場合の控除額が一律20万円、それぞれ引き下げられる。
 平成32年分以後の所得税について適用される。

(3)青色申告特別控除の見直し
 青色申告特別控除額を55万円へ引き下げる。ただし、①その年の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について電磁的記録の備付けおよび保存を行っていること②その年の確定申告書・貸借対照表および損益計算書等の提出を提出期限までにe-Taxを使用して行うこと、のいずれかを満たす場合は65万円とする。
 平成32年分以後の所得税について適用される。

(4)たばこ税の引上げ
 紙巻たばこは、平成30年10月、平成32年10月、平成33年10月からの3段階にわけて、1本当たり1円ずつ増税され、4年で3円増税される。加熱式たばこも、平成30年10月から5年をかけて段階的に増税される。

(5)27年ぶりの新税
 観光立国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図る観点から、観光促進のための税として、国際観光旅客税(仮称)が創設される。ただし、2歳未満の者や乗継旅客には税金がかからない。
 平成31年1月7日以後の出国について適用される。

本誌:2018年2.19号 20ページ

PAGETOP