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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

70年ぶりのノミ(蚤)被害

 ようやく夜中の寝苦しさが和らいだ9月初めの明け方、足元を何かがチクチク刺している気配がしました。朝起きてから足を見てびっくり仰天。左右のひざ下それぞれ20カ所も紅斑ができて猛烈に痒いのです。こういう場合掻いてはだめと分かっていても我慢できるような痒みではありません。

 蚊とは明らかに違うし、何だろう?しばらくしてこれはノミに違いないと思い至りました。それにしてもノミにやられるなんて、記憶をたどってみると70年近く前の幼児時代(昭和20年代)にまで遡ります。現在寝室として使っているまさにその部屋で私は生まれ育ちました。

 終戦直後の物資のない時代、日本人は最悪の衛生環境の中で暮らしていました。子どもの頭はシラミだらけ、布団に入ればノミが飛びかかってくるというおぞましい時代。そのころ登場したのが、アメリカ進駐軍がもたらしたDDTという強力な殺虫剤です。銀座の街頭で進駐軍の兵士が若い女性に頭からDDTの粉剤をふりかけ、彼女たちもきゃっきゃっと喜んでいるニュース映像を映画館で見たような記憶があります。

 我が家でも寝る前や朝起きたとき布団の中にいるノミをつぶすのが日課でしたが、ある日父が缶入りのDDTを買ってきて押入の布団にパフパフかけていました。子ども心に「殺虫剤を直接布団にかけるのは怖いな」という気がしましたが、父には逆らえません。有機リン薬品特有の臭いが染みついた布団で寝ていたものです。

 DDTの威力はたいしたものでしたが、その後環境汚染物質として危険が指摘され市場から消えていきました。また生活環境もよくなりノミの被害はまれになりました。しかしながらウイルスや原虫など昆虫や小動物が媒介する伝染病は地球温暖化でますます増えているように思います。

 現代では病気の花形(?)はがんや生活習慣病、高齢による病変に関するものばかり。しかし人類の長い歴史を通じて人間を苦しめ死に至らしめた病気の筆頭は感染症でした。マラリアのような古典的なものからエイズや新型コロナなど新顔が加わり、人類が向かいあっていかないといけない病気の主役は依然として感染症です。どんなに文明が進化してもノミひとつ退治できない人類は感染症から逃れることはできないでしょう。

本誌:2020年秋季特別号 15ページ

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