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巻頭特集事業承継・相続ニーズの多様化に金融機関が提携加速

大手の商品と地域金融の販路相互活用 承継失敗すれば今後市場も縮小

  • しんきん事業承継プラットフォーム発足式

 事業承継、相続について、岡山県下の金融機関で外部との提携・連携の動きが加速している。顧客の関心が急速に高まりニーズが高度化、多様化しており、自前のメニューや販売体制では対応しきれないケースが増えているためだ。また、相続関連市場のすそ野拡大に伴い、水面下で大手の信託銀行などが提携で地域金融機関を囲い込む動きも活発化してきた。事業承継、相続は、各金融機関にとって自らの将来の営業基盤に直結するテーマだけにあの手この手で対応策を模索している。

連携で売却先の選択肢拡大

 県下8信用金庫や上部団体の信金中央金庫岡山支店などが集まり、9月4日、取引先の事業承継を支援する連携組織「岡山県しんきん事業承継プラットフォーム」が発足した。ほかに登録件数3万5000件の国内最大級のM&Aマッチングサイトを運営する㈱トランビ(東京都)、10の士業らで組織する(一社)おかやま中小企業支援実務家協議会(OSC、岡山市)なども参加。相談から企業の買い手とのマッチング、資産査定、契約締結まで一気通貫で支援するもの。全国的にも珍しい取り組みで信金中金の音頭取りで実現した。

 支援対象を小規模事業者に特化したのが特徴。今まで中堅以上の企業に対してはM&A、MBO(経営陣、社員による買収)など支援メニューも充実していたが、小規模事業者への支援体制は弱かった。M&Aの仲介手数料も数百万円と高額で小規模事業者には使えなかった。各信金の狭いエリア内で売却先を探すと「うわさがすぐに広まるため難しい」面もあった。

 それが新スキームでM&Aでの売却先の選択肢が一気に拡大した。8信金連携で県下一円にエリアが拡大したほか、さらにトランビの参加で全国に拡大した。信金中金によると、発足以降県下から取引先のトランビへの登録件数も徐々に増えているという。登録を仲介した信金は「今まで自らのエリア内だけでは売却先が見つからず事業承継をあきらめざるを得なかったこともあるが、新スキームで可能性が広がる」と期待を込める。

 また、トランビとはほかにも昨年10月に笠岡信用組合(笠岡市)、3月に㈱トマト銀行(岡山市)が提携。ともに同様に売却先の選択肢の拡大が狙いだ。

 地銀では、㈱中国銀行(岡山市)、㈱千葉銀行(千葉市)、㈱伊予銀行(松山市)などシステム共同化を進める連携組織TSUBASAグループ9行は10月3日、「M&A業務プラットフォーム」の構築に向け動きだした。

 同グループは全参加行の総資産が65兆7000億円で今やメガバンクに次ぐ規模。今までも参加行同士でM&Aについて情報交換を行ってきたが、より連携を強化しデータベースの情報を充実、売却先の選択肢の拡充を図る。

そのほか、相続、事業承継とも高度な専門性ゆえにOCSのような弁護士、公認会計士、税理士など存在感が高まり、士業との連携も加速しそうだ。

信託銀の地銀囲い込み活発化

 高齢化が急速に進む地方で相続関連の信託ニーズが急速に高まる中で、大手信託銀行の地方銀行を囲い込む動きが活発化してきた。特にみずほ信託銀行㈱(東京都)が昨年夏に地銀向けにつくった遺言代用信託の新商品は注目を集めた。同商品を扱う信託代理店の地銀は顧客をみずほ信託に紹介、顧客の資金はみずほに移るが、みずほは同額の資金を地銀に定期預金などで預ける。これにより地銀は相続での大都市部への資金流出を防ぐことができ地銀の悩みを解決する画期的な商品と言える。そのほかにも各信託銀はあの手この手の提案を強化している。

 これに対し、中国銀行も「ここ1年こうした提案の話が急に増えてきた」と話す。慎重に状況を見極めているが、提案内容によっては連携・提携にやぶさかではないというスタンスだ。全国の地銀では大半が信託銀の信託代理店で、同行もみずほ信託、三井住友信託銀行㈱(東京都)の信託代理店だが、さらに2016年10月から銀行本体で信託業務に参入。遺言信託・遺産整理、遺言代用信託など自前の信託商品で相続関連の商品も既に一通りそろっている。一方で、相続への関心が急速に高まり顧客からの相談内容も多様化し、既存の取扱商品の枠外の相談も出てきた。商品は基本的に自前主義だが、新たなニーズが拡大すれば信託銀との連携拡大の可能性も秘めている。

 県下の金融機関が相続、事業承継で外部との提携・連携、特に今まで競合していた相手とも組む背景には、相続による預金流出、後継者不在による廃業など、もはや看過できない状況になりつつあり危機感を募らせているからだ。こうした状況が続けば将来の事業基盤が揺らぐ。また、信託銀の系列のメガバンクはマイナス金利による採算悪化で全国的に店舗再編や人員合理化など効率化を打ち出しているほか、信託銀も一部でリテール(小口金融)の不採算部門から撤退、地銀とのすみ分けが進み競合関係が薄れていることも理由。競合よりも連携しウイン・ウインの関係を構築した方が得策で今後ラブコールは活発化しそうだ。

第3者への承継で課題山積

各金融機関がここ数年事業承継、相続に本腰を入れて取り組む中で、さまざまな課題も表面化、一筋縄ではいかない問題の難しさを改めて浮き彫りにした。特にオーナーの身内以外の第3者への事業承継の場合だ。第3者に事業を譲渡しようにもオーナー個人の資産と事業用の資産との分離が困難でネックになっていることが多いという。また、第3者でせっかく後継希望者がいても技術やノウハウの伝承に数年かかる。その間雇用する必要があるが、小規模事業者では赤字で雇うだけの余力がないというケースもあった。逆に業績が好調ゆえに自社株の評価が跳ね上がり、社員らが株式を取得する際に二の足を踏んだというケースも。また、経営者個人への保証もネックになっている。

国はこうした課題を解消し第3者への承継を支援する策を検討中だが、どこまで成果を上げるか未知数だ。

「県事業承継ネットワーク」

昨年度1434件を承継診断

 県、(公財)県産業振興財団や支援機関、金融機関など官民91機関で組織する「岡山県事業承継ネットワーク」が発足して1年半が経過した。今年度は昨年度の実績をもとに事業承継について地元企業への支援を強化していく。

 昨年度は商工会議所など支援機関、金融機関が60代以上の経営者の企業を中心に事業承継診断を当初目標の680社の2倍以上の1434件に対し実施した。このうち同ネットワークのコーディネーターが159件に対し訪問し支援、さらに13件に対し弁護士、税理士などの専門家を派遣し具体的な事業承継計画の策定を支援した。

 19年度は新たに年間680件の目標を掲げ地元企業への事業承継診断を実施しているが、「目標より早いペース」(県経営支援課)で進んでいる。昨年度の診断実施企業に対しても継続しより踏み込んだ支援を行っていく。

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