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連載記事山田響子の魅力を引き出すコミュニケーション術

不適切な行動と適切な行動の分かれ目

 前回の連載では、不適切な行動の人との向き合い方、心の距離の保ち方についてお伝えいたしました。目的論であるアドラー心理学では「不適切な行動にも目的がある」と考え、理解に苦しむあの人にも、あの人なりの善なる目的があると捉えてみようというご提案でした。心の距離を置くこと、物理的に距離を置くことができるならさらにおすすめです。

 しかし、そうもいかない関係性というものがあります。その不適切な行動の人があなたの部下やチームメンバーであって、その人の変容を生むことがあなたの仕事でもある場合です。「正の注目」「負の注目」という言葉があります。私たちは子供の頃から、足りないところ、目標に至っていないところに目を向けられがちです。親やスポーツの指導から始まり、社会人になってからも同様でしょう。そうしてダメ出しを受けて成長した私たちは、自分自身へもついダメ出しをしてしまいがちです。不適切な行動の人の「目的」は、「劣等を回避したい」という自己保身であることが多いのです。

 本当は、自己重要感を満たしたり、劣等な自分を埋めるための前向きな努力ができればいいのですが、まっすぐに向き合ってそれでも埋められない、満たされないと実感するのが怖いと言えるかもしれません。目に見える行動が不適切であれば、そこをなんとかしてほしい、してあげたいと思い、指摘したり注意することが多くなってしまうでしょう。しかし、それでは逆効果になってしまうことが多いのです。目的に向かって、不適切な行動を選ぶのか、適切な行動を選ぶのかの分かれ目は、「勇気があるかどうか」。

 勇気とは心のガソリンです。不適切な行動をしてしまう人は、その人が「不適切な人」なのではなく、今、心のガソリンがガス欠の状態なのです。ダメ出しや指摘では心のガソリンは満たされず、行動が改善されることは難しいのです。

 そこで、ぜひ取り組んでいただきたいのが「正の注目」です。欠けているところ、目標に達していないところに注目する「負の注目」ではなく、その人がすでに持っているところ、目標に近づいているところに注目する「正の注目」です。

 ここで、誤解されがちなことについてご説明します。不適切な行動の人を勇気づけるために、「正の注目」をしましょうねとお伝えすると、こんなことが起こるのです。それは、「あいさつをしない人が、小さい声でもあいさつをした」という点に注目する。「締め切りに遅れることが多い人が、ギリギリでも締め切りに間に合った」という点に注目するのではないのです。

 その人は覇気がなく、あいさつはしない。けれど、文字が丁寧でとても読みやすい。その人は締め切りには遅れがちだけれど、元気が良くて笑顔が輝いている、というその人の好ましい特性に注目するのです。私の開催するセミナーに出席してくれた女性リーダーが、指導を担当する新人の女性スタッフについて困っていました。明らかに周囲に迷惑をかける不適切な行動で、指摘すると「ふてる」「泣く」「返事をしない」。その言動は相談者にとっては「職場でとるべきではない許しがたい態度」で、とても腹立たしいものです。相談者から見れば、新人スタッフは「人格的に不適合な人」になってしまいました。しかし、相談者であるリーダーは彼女を指導しないといけない立場なのです。

 「あなたは間違っている。だから正しなさい」という指摘は正しいかもしれません。新人スタッフの彼女がとっている言動は不適切で周囲に迷惑をかけています。改善しなければ同じ職場の仲間であることは困難かもしれません。しかし「あなたは間違っているから、正なさい」という指摘では、勇気が欠如している人の行動変容を生むことは難しいのです。

 「仕事上で迷惑がかかっていること」という現実は変わりません。しかし、その人の「人格」ではなく、「今、勇気の欠如から、不適切な行動を取ってしまっているだけなのだ。その人の人格が誤りなのではなく、いま失敗してしまっているだけなのだ」という視点でみることから指導や助言が届くようになるのです。

本誌:2018年7月9日号 23ページ

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