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特集[ウィズコロナのビジョン/公共交通] 両備グループ代表 小嶋光信氏

コロナ禍は日本の伝統見直す機会 密にならず収益生み出す産業育成

  • 小嶋光信氏

 見えないウイルスと闘うのは戦争と同じくらい怖いと分かった一方で「結局、大事なのは子どものころによく言われたことと同じ」と感じました。外から帰ると手を洗い、うがいをするのはもちろん、昔は「食事をするときは黙って食べなさい」と言われたもの。コロナ対策で大切なものは、そうした基本的な生活習慣ということです。

 感染病がまん延した平安時代、貴族が扇子を広げて話したのも飛沫防止のためではないかと思うし、家では靴を脱ぎ、毎日ふろに入って清潔に暮らすという考え方は、日本の長い伝統の中に生きています。大量生産・大量消費の現代ではそうした価値観は薄れつつありますが、もう一度足元を見つめ直すことで日本の良さを再確認できるのではないでしょうか。

 ビジネスに目を移すと、私が両備グループに入った昭和49年ごろ、公共交通をいかに維持するかがテーマでした。どこの事業者も観光バス、観光事業、そして高速バスと手を広げ、その利益で路線バスの赤字を支えていくビジネスモデルが出来上がりましたが、今回の「事件」で公共交通を支えるものがなくなったということです。

 観光バス、観光事業、高速バスさらにスーパー、デパート、遊園地…。いずれも「密」にすることで成り立つ産業です。(一財)地域公共交通総合研究所のアンケートで、このままでは2021年度中に5割の企業が事業を維持できなくなることが明らかになりました。コロナ収束後も2割の客は戻らないとみていますが、かと言って運賃を上げるとさらに利用客が減り、朝夕のラッシュに対応するために路線カットもできないというジレンマがあります。

 私は地方の生活交通を残す3原則として①道路運送法を利用者中心ではなく供給側のことも考えた法律に変える②ヨーロッパのように公共交通を維持する財源確保③みんなが乗って支える国民運動―を掲げています。正直なところ実現には10年かかると考えていましたが、コロナ禍のおかげで現実的なものになってきたと思っています。もし今回も中途半端な改革に終わってしまえば、いつまで経ってももうからない、補助金頼みのみじめな産業になってしまう。自立するためには公と民間の責任をきちんと分け、「公設民営」または「公設民託」しかないのです。

 両備グループでは、生活に必要な移動だけでは公共交通を維持できないと考え、乗ることを目的にするためチャギントンを始め、楽しい乗り物に切り替えています。地域の魅力を発信する「じもツアー」には約30自治体が参画し、小豆島を中心にした瀬戸内海を世界の観光地にする取り組みなどを進めています。

 日本は社会の気付きがものすごく遅く、それに対する危機感からアジアでの事業展開を始めましたが、やはり地元企業として、岡山をはじめ中四国、西日本が素晴らしい地域になってほしいし、今やっていることは次の時代の人たちが「先輩たちがこういう種をまいてくれたおかげで素晴らしい花が咲き、実がなった」と言ってもらえるようにするためです。私自身はそろそろ人生の最終章かもしれませんが、それは次の時代の第1章でもあるのです。

 両備グループでは労働集約型産業の公共交通の売り上げは全体のほぼ3分の1を占めていますが、利益はわずか3%に過ぎません。しかし、多くの雇用を生み、人々の暮らしを支えるという「社会的利益」はものすごく大きな産業です。利益を出すことが決して目的ではありませんが、社会的コストは企業が利益を出しているからこそ賄えるもの。グループの事業セグメントは現在、「トランスポーテーション&トラベル」「ICT」「くらしづくり」「まちづくり」の4本柱ですが、コロナで1つ棄損したこともあり、セグメントの融合などで5本柱にしたいと考えています。

 アフターコロナの新しいテーマとして「世界が変わる、社会が変わる、企業が変わる」と掲げました。ビジネスチャンスはどこにでもあるのです。今はひどい目に遭っていますが、その先を見たとき、今までの大量生産・大量消費型で、「密」にすることを追求した産業構造も変わります。今度は「密」ではない状況で収益を生む産業にしていかなければならず、その答えは「高付加価値産業」しかありません。

 1910年に西大寺鐡道として創立し、現在は企業数約50社、従業員数約1万人を擁する企業グループ。経営理念は「忠恕=真心からの思いやり」。

本誌:2021年1月1日号 6ページ

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