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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

YouTuber「スーツ」君

 最近、ひまな時間は昼夜を問わずYouTubeを見て過ごしています。70歳を目前に、親の介護からも労働からも解放され後は健康な状態で最期を迎えられるようせいぜい自分自身の健康管理することが唯一の関心事である今の私の生活では暇でないような時間帯はありません。つまりは一日中YouTubeを見ているといっても過言ではないのです。

 最近見つけたのは全国の鉄道をひたすら乗りまくる映像を大量にUPしている「スーツ」と名乗るYouTuberのサイトです。いつもスーツ姿で登場するからスーツ君。鉄道乗車を目的地までの移動手段としてしか考えていない常識人の私からみれば、スーツ君はそこに鉄路が敷かれている限り、繰り返し繰り返し、(私にとって)意味不明な旅に出かけます。

 「最長往復切符の旅」というのは全国のJR路線をほぼ一筆書きのように半年以上の時間をかけて走破するというけた外れの旅日記です。常時早口のナレーションが入るので、見ているうちに寝入ってしまっても夜が明けるまで、何となく自分も全国を旅している錯覚にとらわれます。

 列車に乗ること自体が目的で、目的地に効率よく到達することには二義的な意味しかないスーツ君の旅は往々にして非常に不合理な行程をたどります。東京駅から上野駅までの5分間を8000円も払って新幹線のグランクラスに乗ることもいといません。最長路線の列車に乗る旅では羽田からJALのファーストクラスで稚内まで飛び、そこから鉄道で札幌へ、すぐさま新千歳空港から伊丹に移動、続いてプロペラ機で出雲空港へ、出雲から寝台特急「サンライズ」で東京駅へ、休む間もなく東京駅から東海道新幹線のぞみ号に乗車して博多へ、長い旅はやっと終わります。

 スーツ君は鉄道旅行の話だけでなく、工業高校から推薦入試で横浜国立大学に入学した話、ユーチューバーとして金を稼いで自分の世界観を実現していることなどをよどみなくしゃべっていますが、そこには非常に醒めた意識で自分自身を把握している聡明な青年の姿がイヤミなく表現されていて好感がもてます。「大学には友人はいない。ぼっちで幸せ」と公言するスーツ君は、ネット社会の闇の中で孤立しているかというとその正反対で、むしろ世界とはすがすがしい連帯意識で結ばれているなという印象を私は受けました。

本誌:2018年4月16日号 14ページ

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