WEB VISION OKAYAMA

連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

ヒヤッとした出来事 

 山陽本線庭瀬駅から県道を南に1㎞ほど行ったところに妹尾崎というのどかな場所があります。そこに「こんなところに?」というほどシックで瀟洒なカナダ風の外観を誇る喫茶店があります。店の名前は「ロッキーマックス」。20年前、私が両親の介護を始めたころから変わらず毎日のように出かけてはマドモアゼル(店主)が淹れてくれるおいしいコーヒーをいただいています。

 お客の大半は地元の人で、その中の常連さんで、Nさんという脳梗塞からよみがえり、自宅からリハビリがてら歩いてやってくる高齢の男性がいます。ところが店の入り口は道路から少し高くなっていて石段が数段あります。私はNさんがバランスをくずして石段から転落しないかいつも心配。重そうな体格なので転んで頭でも打ったら命取りです。

 そして事故は起こりました。最近喫茶店の近くにコンビニが新規開店し、オープニングセールで大勢の人が詰めかけた日のことです。いつものようにコーヒーを飲もうと店に行ったら、N老人が石段の上のドアの前にうずくまっています。両手それぞれにコンビニのレジ袋が握られ、周りには孫のためにもらったのかゴム風船3つが散乱しています。Nさんは私の姿を見て、「転んで立てないんじゃー」と助けを求めてきます。

 ところがおじいさんはドアを背に身動きならない状態なので店の中の人の助けを借りることもできません。救急車を呼ぶべきか?私は一瞬ためらったものの意を決しておじいさんを抱き上げることにしました。ずしりと重い!しかしこちらも火事場の馬鹿力です。Nさんを支えて立たせることができました。長年両親の介護をした経験が思わぬところで役に立ったものです。

 さいわい大事に至らず、Nさんはいつものようにコーヒーを飲んで、「あんたのおかげで助かった」と何度も私に感謝の気持ちを伝えてくれましたが、実際これから先のことが思いやられます。今回のような事故を恐れて家の中に閉じこもったら急速に運動機能を損ない、社交性を失えば認知症まっしぐら。かといってリハビリ目的でも一人で外出すれば、至るところ危険だらけ、交通事故にあう心配もあります。それから数日後、Nさんは親戚の人に連れられ元気にコーヒーを飲みにきていました。ひと安心ですが……。(康)

本誌:2020年12月1日号 17ページ

PAGETOP