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イタリアへの旅(2)

 関西空港から北京経由でローマにやってきました。空港から市内中心にあるテルミニ駅まではノンストップの電車で移動しました。今回も旅の相棒は昔の職場の後輩K君です。K 君はかつて大学の事務職員として教員や学生のお世話をてんてこ舞いになりながら熱心にこなしていたのですが、安倍首相と同じ腸の難病に苦しめられ40歳にもならないうちに退職し、今は大阪でのんびり過ごしています。もう永久に働く気はないようです。K 君と私は、年の差は20歳以上あってもお互い暇で、いつも電話で「何か楽しいことない?」「ない!」と言いつつ、年に2回くらいは誘いあって格安の海外旅行に出掛けている間柄です。

 テルミニ駅はイタリア映画「終着駅」(1953)の舞台として、かつて日本で知らぬ人はいないくらい有名な駅だったのですが、日本人にとって駅の概念としての「終着駅」はなじみが薄いですね。岡山駅や大阪駅は終着駅ではありません。線路がそこで終わらず続いていますから。ところがテルミニ駅は文字通りそこが終点の駅です。映画のタイトルはもちろん主人公たちのラブロマンスの終わりを暗示しているのですが、今では「終着駅」という語感の良さが一人歩きし奥村チヨの名曲のタイトルにもなっていますね(話題がことごとく古くて申し訳ないです)。

 さてそんな由緒正しい本家本元のローマのテルミニ駅に降り立った我々「老年中年コンビ」は駅近くの格安ホテルにチェックインしたあと、駅の中にある「にぎわい広場」というか飲食店が集まったコーナーへ夕食を取りに行きました。1972年の正月に初めて来たときの暗くてわびしい終着駅の面影はどこにもありません。威勢のいい店のお兄さんたちの呼び込みに我を忘れて、チーズ、生ハム、ピザ、アーテチョークのオイル漬け、ワイン、ビールとまるで欠食児童のように手当たり次第に注文し、胃の中に納めました。ムフフフフっと旅に出た歓びがわき起こる瞬間です。

 翌日は路線バスに乗ってボルゲーゼ美術館に行きました。カラヴァッジョの絵が数点あるので大変な人気美術館ですが、前回記したように日本でチケットをネットで購入していったのは正解でした。料金もむしろ安いぐらいでした。美術館の建物そのものが美術品である館内に1歩入って目にしたおびただしい数の油絵と彫刻にはもう言うべき言葉がありません。素晴らしすぎます!

 西洋の古典絵画や彫刻の大きな特徴として、その具象性というか人物を写真に切り取ったようなリアリスティックな表現方法が挙げられます。例えば、少年がみずみずしい輝きを放つブドウの房に食らいついている色彩感、臨場感は個性の表現を極限まで避けた日本の絵巻物などの人物像とは著しい対比をなしています。

 そして、そうした絵画や彫刻のモデルとなったであろう古代やルネサンスの人物が、表情や仕草を少しも変えることなく、この街でワインを注ぎ、「ボンジョルノ!」とあいさつしてくることに改めて驚きます。1000年、2000年どころか数千年の昔も現代と何一つ違わない人々の思いと暮らしがあったであろうことが絵や彫刻を通して如実に感じられます。(続く)

本誌:2017年12.4号 16ページ

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