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冬の牡蛎(カキ)

 終戦直後の食糧難の時代に育った私は嫌いな食べ物がほとんどありません。食べ物に好き嫌いなど言っていては生きていけなかったからです。

 とはいえ、子どものころ母が作る雑炊に入った牡蛎だけは別で恐ろしくまずくとても食べられませんでした。

 牡蛎に対する嫌悪感は大学生になるころまで続いていたのですが、一度広島出身の友人が広島の自宅に招いてくれ、そこで出された酢ガキを食べて私の牡蛎に対する認識は一変しました。雑炊の牡蛎とは全然違う! 古代から美食のある種頂点に君臨する牡蛎の味が分かる大人になれたことがうれしかったです。

 一説によれば、子どもが嫌いな牡蛎も大人になるとおいしく感じられるようになるのは、生殖に必要な元素セレンが牡蛎に多く含まれているからだとか。

 先日1泊2日で東京に出掛けました。出掛ける前の晩、留守のあいだに冷蔵庫の牡蛎が悪くなったらいけないと思って1パック全部を生で食べたのがよくありませんでした。

 2日目、東京の友人たちと白金台に昨秋オープンしたばかりのおしゃれなイタリアンレストランでワインを飲み始めたころからお腹に異変が。しかし目の前の柔らかい山形牛の頬肉、イタリア産の赤ワインとチーズ、絶品デザートの魅力には抵抗できずコースの最後まで味わい尽くして羽田空港に向かいました。

 空港ロビーで出発便を待つ間、体調はいよいよ悪くなり、意を決してトイレに行き山形牛の頬肉もワインもチーズもすべて惜しみなく流してきました。大正解でした。飛行機はピットを離れたあと30分も離陸待ちを強いられましたので。

 おいしい冬の生牡蛎も3つまでにしておかなくちゃ、そして新型インフルエンザに代わってノロウィルスがまん延している昨今、還暦を過ぎての暴飲暴食は時として命取りになることを学んだ小旅行でした。

本誌:2010年2.8号 14ページ

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