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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

梅雨前の逢魔時(おうまがどき)

 1年でもっとも日の長い今の季節。2月に種芋を植え付けたジャガイモの収穫時期であり、春になって植えたキュウリやトマトもそろそろ新鮮な果実を実らせるさわやかな季節です。ところが私は毎年この時期になると精神が不安定になるというか、怖い夢、不条理な夢をよく見ます。とりわけ夕方に昼寝したりすると。どんな夢かというと夏目漱石の短編集「夢十夜」のシーンを思わせるような夢で、空恐ろしくも息苦しくなるような夢とも現実ともはっきりしないストーリー性があります。

 例えば漱石の「夢十話」の第三夜。「自分」は次のように語り始めます。「こんな夢を見た。六つになる子供を負ぶっている。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている。自分が御前(おまえ)の眼はいつ潰れたのかと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人である……」、文豪の文章はちょっと引用するだけでもぞっとする迫力があります。「自分」はその子を背負って暗闇の雨の中、その子の命ずるまま田んぼの中の道を杉の木がある方へ向かっていきます。心の闇と物語のシーンの闇がぴたりと重なり読者の恐怖心をあおります。

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本誌:2024年6月17日号 11ページ

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