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怒っているときのNGワード

 先日大阪の地下鉄で、こんな出来事がありました。比較的混んだ車内で、座れる座席はありませんでした。ドア付近でお母さんがお子さんのことを怒っているようです。繰り返されているのは「なんで食べたのよ?」「どうしてお母さんに聞かなかったの?」という叱責でした。見れば、ベビーカーの中に赤ちゃんがいて、2~3歳の女の子が揺れる電車の中で立ったまま、ラップに包まれた手作りのおにぎりをほお張っています。そして叱られているのは小学校低学年くらいのお姉ちゃんでした。

 イライラする気持ちをコントロールする「アンガーマネジメント」をお伝えしている私には、どうしてもその親子のことが気にかかってしまって、電車の隅から目が離せないでいると、事情が分かってきました。どうやら、お母さんは電車での移動中におにぎりを子どもたちに食べさせたかったようです。しかし、お姉ちゃんは祖母宅で何か食べてしまったらしく、お腹がいっぱいでお母さんに叱られている様子でした。我が子を叱責している言葉が響く電車の中。胸が痛みました。このお母さんに伝えてあげたかったことがあります。それは怒っているとき使ってはいけない言葉です。

 このお母さんは、娘さんがどんな言葉を口にしたら怒っている気持ちを収めることができたのでしょうか?きっと、素直に「お母さんごめんなさい」と謝ってくれること、そしてもう一つ「今度からは食べる前に、食べていい?ってお母さんに聞くようにするね」という建設的で前向きな言葉ではなかったでしょうか?でも、「なんで!?」「どうして!?」と怒っているうちは、相手からその言葉が引き出されることはありません。「なんでできていないんだよ!?」「どうしてもっと早く相談しなかったんだ!?」上司や先輩という立場にある読者の皆様の中にも、つい部下・後輩の指導に口をついて出ることは無いでしょうか?でもこの「なんで」「どうして」から望む言葉が返ってくることは無いでしょう。

 人は「なんで」「どうして」と言葉を浴びせられたとき、その言葉通り単に理由を聞かれているとは受け止めません。「責められている」と受け止めてしまいます。責められていると感じてしまえば、「頭の中」というスーパーコンピューターでは「言い訳」しか検索していません。その結果、さらに「言い訳するんじゃない!」と怒らなくてはいけなくなってしまうのです。実はその言い訳を招いているのが自分の叱責であることに気付いていない方は多いのです。

 簡単なテクニックがあります。「なんで」「どうして」を「どのようにしたら」に変換してみるのです。「なんでできていなんだ!?」を「どうすれば期限を守れるようになる?」と言い換えるとどうでしょう。言い訳を探していた頭が切り替わり、「翌週のTO DOリストを金曜日に作っておこう」など建設的で前向きな言葉が出てくるかもしれません。さらに、怒っているとき使ってはいけない言葉があります。「いつも」「絶対」「必ず」です。怒っているときは、つい自分を正当化したい気持ちから、強い表現をしがちになってしまいます。でも、この「いつも」「絶対」「必ず」は100%という意味です。「お前はいつも締め切りが守れないよな!」と叱るとき、その相手が一度でも締め切りを守ったことがあれば、それは正しくありません。素直に反省し、建設的に考えようとする邪魔をしてしまいます。

 「前から言おうと思っていたけど」「この際だから言うけど」もNGワードです。これも相手の心に拒絶の気持ちが芽生える言葉です。「怒って」いいのは「今起こって」いることだけと覚えておいてください。叱ると怒るの違いについてもよく質問されますが、叱るとは相手の成長を願って進言することです。強い言い方も、怖い顔も必要ありません。

 そして前号でもお伝えしましたが、怒っているときには、その「怒り」の底にある感情に注目してほしいのです。心理学的には怒りは第2次感情と言われます。先ほどお伝えした電車の中のお母さんの、怒りという感情の底にある、第1次感情はどんなものだったのでしょうか?せっかく作ったおにぎりを食べてもらえなくて「悲しかった」。どうしてもこの移動中におにぎりを食べてほしい事情があるから「困った」。などではないでしょうか?「なんで食べたのよ!?」と聞かれても、ただ黙り込んでいた女の子でも、こんなふうにお母さんから第1次感情を伝えてもらえば、素直に「ごめんなさい」と言えそうですよね。

 自分の第1次感情に気付き素直に伝えること、最初は難しいかもしれませんが、コミュニケーションは勝ち負けではありません。素直なコミュニケーションは周囲の人や目の前の景色を変える可能性があります。

本誌:2015年1.19号 19ページ

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