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真冬の桃「冬桃がたり」

 ドイツを代表する詩人であり文豪のゲーテ(1749-1832)の作品に「詩と真実」という自伝があります。この本を読んだのは中学生のころだったので50年以上昔のことで、どんな話が書かれていたか、もうほとんど記憶にありません。しかし1カ所だけ鮮明に覚えているのはゲーテが生まれて初めてパイナップルを食べたときの驚きを述べた部分です。

 生物学の教授が若きゲーテたち学生を前に「これがパイナップルという果物だ」と示して一切れずつ学生に食べさせてくれたときの驚きと感動を記しています。ゲーテに限らず人はいつの時代にも異国の果物、季節外れの果物に憧憬を抱いてきました。

 ゲーテのパイナップル試食から250年が過ぎ、生鮮食品の物流システムと技術が確立した今日では、スーパーの果物売場にはありとあらゆる果物が並んでいます。しかしただ一つ桃だけは10月から5月まで姿を見せません。9月の黄金桃を最後に初夏の早生種が出回るまで桃好きの私は寂しく感じていました。

 ところが昨年、晩秋になって朗報が新聞やテレビからもたらされました。ついに岡山において冬場成熟する桃の出荷が始まったというのです。その名も「冬桃がたり」。ちょっと舌をかみそうなネーミングながら期待でわくわくします。真冬に新鮮な桃が食べられるというのは果物好きの人々にとって長年の悲願でした。出荷量が少ないのでデパートにでも行かないと手に入らないかなと思っていたら近所のスーパーにも出現しました。こぶりな桃で2個入り1000円ぐらい。高めですが妥当な線です。

 肝心の味はというと真夏の清水白桃には遠く及びませんが一応桃の味はしました。まだまだ改良の余地があるなというのが率直な印象でした。開発担当の方々や栽培農家の皆様のいっそうの奮闘に期待します。

 ところでヨーロッパの冬の果物店にはオレンジやリンゴに混じって南半球産の桃やサクランボ、スモモなどがリーゾナブルな価格で売られていてうらやましく思います。おいしい果物に国境はないはずですが、その点日本は国産にこだわり過ぎているのではないでしょうか。

 冬場にニュージーランドやオーストラリア産の芳醇な日本種の桃が食べられることも一つの選択肢であると思います。

本誌:2015年1.19号 15ページ

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