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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

さまよえるオランダ人

 新型コロナウィルス感染症の蔓延で身動きとれなくなったダイヤモンド・プリンセス号の乗客、乗員は2週間の長きにわたって隔離された不安な日々からやっと解放される目処がたちました。またアメリカやカナダ政府からチャーター機が差し向けられ、多くの外国の方々も本国に帰ることがかなえられそうです。本当にご苦労さまでした。症状が出て入院中の皆様の平癒もお祈りします。

 日本が受け入れたダイヤモンド・プリンセス号とは対照的に日本や台湾、フィリピン等から入港を拒否され一時漂流状態に陥ったクルーズ船ウエステルダム号に関しては、オランダ船籍ゆえにあちこちのニュース記事で「さまよえるオランダ船」などと形容されたものです。

 私もワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」の存在は中学生のころからタイトルだけは知っていましたが、今回の事件を契機にどのようなストーリーなのか追ってみました。ごく簡単に紹介します。

 ノルウェーのフィヨルドに面した港町。そこに幽霊船が現れ、船長は呪いを受け、7年に1度だけ上陸できるが、乙女の愛を受けなければ呪いが解けず、死ぬこともままならず永遠に暗い海をさまよわなければならない運命にあります。結末としては乙女の死を賭した愛が得られ船長の呪いは解け、死ぬことができたというお話です。

 幽霊船は沈没し船長も乙女もともに死ぬので救いがない話のように思えます。しかし死のうにも永遠に死ねないことは究極の苦しみだという考えは古今東西あるようで、仏教でも輪廻転生の業から涅槃に入ることを説いています。平たく言えば何事も最後は決着がつけられなければならないという意味もあるでしょう。

 何はともあれ何千人ものお客を乗せたウエステルダム号は永遠にさまよう幽霊船の運命をたどることなく、カンボジアの港に入港することが許され、新型ウィルス感染者の存在も否定できないながら乗客は無事解放されました。この点については、判断を二転三転させ、長期間無為無策のまま乗客、乗員を船の中に隔離して船内感染を拡大させてしまった日本の検疫当局の判断よりはるかによかったのではないかと思います。

 いずれにしても新型コロナウィルスが世界のあちこちを永遠にさまよう事態だけはご免被りたいです。

本誌:2020年3月2日号 14ページ

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