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連載記事杉山慎策の経営学考察

山田方谷2

 江戸時代の「藩」は一つの独立した企業のような形態であり、そのオーナーが「藩主」であった。「江戸時代の十大改革」で取り上げる殆どの「改革」はそのオーナー自らが取り組んだものが多い。勿論優秀な人材がサポートしたことは間違いないがオーナーが自ら改革に臨んだのに対し、方谷が取り組んだ改革の特徴の一つは藩主である板倉勝静から全権委任されて改革に臨んだことである。このことは大きな課題を方谷に与える。どんなに優れた人材で組織の中の多くの人たちの信望があったとしても、組織の改革、特に身を削るような改革を進めると、必ず身内の中に反対者あるいは妨害者あるいは無視者などが出現し、改革の道は一直線とは行かない。

 今日でもセブン&アイ・ホールディングスの伊藤家と鈴木敏文氏との軋轢などにみられるようにオーナーと組織上のトップとの関係は、外部から見るほど単純ではない。しかし、藩主板倉勝静は松平定信の孫という血筋と聡明な頭脳を有し板倉家の婿養子として、方谷を抜擢し、二人三脚で改革を成し遂げたと考えてよいであろう。板倉勝静の聡明さについては江戸末期の困難な時期に彼自身が徳川慶喜から老中首座の地位を与えられたことでも明らかである。

 ある組織が倒産するとはどういうことか考えてみたい。「倒産」という言葉は1952年に東京商工リサーチが使用し始めた言葉であり、「倒産」とは、
 「企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態」
を指す。極論すれば負債が資産より多かろうとも、損益計算書で多額の赤字を連続して計上していようとも、企業は資金が回っていれば「倒産」には至らない。プラットフォーマーとして世界を席巻したGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字の略)も長く赤字を垂れ流していたが、上場することを前提に外部から資金を上手に取り込んだ。GAFAの企業価値は現在世界のトップ10に入っている。

 要は、赤字だから組織が存続できないのではない。資金が続けば組織は継続でき、資金が途絶えると組織は倒産する。これを法則の1と定義する。

 【法則の1 組織が倒産するのは赤字だからではなく、資金が途絶えるからである】

 方谷に板倉勝静から「改革」のミッションが与えられた時に、備中松山藩には年収の2.4倍の累損があり、既に豪商などからの新たな借金は困難な状態にあった。方谷の次に取り上げる米沢藩の上杉鷹山のところでも述べるが、米沢藩も資金繰りに困窮し一時米沢藩そのものを幕府に返上することまでも検討していた。備中松山藩もほぼ同じ状況にあったと言ってよい。年収の2.4倍の累損を持つ赤字企業の経営を委ねられた時、皆さんならどのように対応するか考えてみて欲しい。この改革のためには二つの視点が重要である。一つはどのような「理念」や「行動規範」で組織改革を進めるかということで、今日の経営学で言う「ミッション」や「ヴァリュー」という視点である。もう一つは情報の開示である。危機的状況にあることを正確な数字としてまとめ、その情報を組織の構成員全体に知らしめることである。

 【法則の2 改革には「理念」や「行動規範」が重要である】

 【法則の3 改革には正確な情報を組織の構成員全員に開示することが重要である】

 方谷が佐藤一斎のところで学んでいる時に書いた論文に「理財論」がある。彼はこの「理財論」の中核である「事の外に立ち、事の内に屈しない」を基本方針として改革に取り組んだ。要は、税収と支出を厳密に運用するが、同時に年収の2.4倍の累損を抱えている状況では旧来の藩財政の内だけに留まるのではなく、外に目を向け新たなイノベーションを興す必要があるということである。法則の4として、改革には理財の外に立つことが重要であることを掲げておきたい。次回詳述する。

 【法則の4 改革には理財の外のイノベーションが重要である】

「理財論」に記されたもう一つの理念は「利は義の和」であるということである。「綱紀を整え、政令を明らかにすれば自ずと結果は得られる」という意味である。逆に言えば「利」だけを追求しても成果は得られないということになる。特に方谷のように藩主から委託された改革者にとって如何に組織(藩)の多くの人たちを巻き込んで経営改革を実現するかが非常に重要となる。法則2について方谷はこの「利は義の和」であるをスローガンに全藩士を巻き込んで改革に取り組んで行く。

本誌:2019年7月1日号 19ページ

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