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どうでも釜飯

 親戚のゆみちゃん、といっても50代の女性ですが、カナダのトロントからリサという日系3世のおばちゃまが来日するので通訳してくれないかと頼まれました。

 ゆみちゃんの祖母とリサの祖母が姉妹だったらしく、今でも一族の墓所がある倉敷近辺に親類縁者がおおぜい暮らしています。46年ぶりに先祖ゆかりの土地を訪れたリサの大歓迎行事に通訳として私も駆り出されたというわけです。

 歓迎する側としては日本食でもてなすのが一番と考えるのはごく自然なことです。リサ到着早々和食レストランで昼食。エネルギーと好奇心の固まりのリサは早口英語でいかにカナダの日本食がひどいか、値段が高いばかりでちっともおいしくない、経営者もコックも中国人や韓国人ばかりで本物とは味が全然違う……とまくしたてます。

 私は“通訳”と名乗れるほど英語が分かるわけではなく、まあまあ日常会話なら意志疎通に事欠かない程度の理解力。しかしリサのマシンガントークをよく聞いていると「この料理はなにもかもトロントの偽物日本食とは比べものにならない」レベルの話を繰り返し言っていることに気づき、通訳する人が困るような複雑で込み入った内容ではなかったので何とか大役を乗り切れました。

 翌日の昼食はちらし寿司、そして歓迎行事の最後はまたも和食レストランにて釜飯御膳が用意されていました。店の女将が飲み物の注文にきました。「お茶は温かいのと冷たいの、どうなさいます?」と聞くので私は釜飯御膳を前にしてつい口が滑りました。「そんなことどうでも釜飯」。座敷に冷たい空気が流れたのは仕方ありません。女将もつっ立ったままにこりともしません。

 「おかみさん、あなたも客商売だからお愛想でもいいから反応してくれたら?」。女将「お客さん、私ら“どうでもかまめし”とアナゴを出したとき“あっ、オナゴが来た!”と言うのをいつも聞かされているので笑う気にもなれません」と、それでも少しだけ愛想笑いしながら奥の方へ消えていきました。

 リサは土瓶蒸しに興味津々で、いましがた起きたお寒い事件について私に説明を求めなかったのは幸いでした。英語で説明しろと言われてもそれこそ「そんなことどうでも釜飯」としか答えられませんから。

本誌:2016年10.31号 19ページ

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