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勇気の心理学「アドラー心理学」

 私の担当する研修では、ビジネスマナーであれ、接客研修であれ、心の働きの話を必ずさせていただきます。笑顔の作り方やお辞儀の角度のメソッドも大切ですが、それだけでは不十分です。人が前向きに物事に取り組み成果を出していくためには、目の前の出来事をどう受け止めて、どう向き合っていくかという、心の働きが不可欠だと考えているからです。

 「心理学をベースにした、コミュニケーションをお伝えしています」と自己紹介すると、けげんな顔をされることが多くあります。心理学とは、眠れないとか、どうしても元気が出ないとか、心療内科などで用いられる療法であると思われている方が多くいらっしゃるのです。私自身が救われ、大切にお伝えしているものは、健康な心の持ち主が、今よりもっと前向きに幸せに生きるための心理学です。

 アルバート・エリスの唱えた「ABC理論」というものがあります。A・B・Cは
A Activating event(出来事)
B Brief(考え方・信念)
C Consequence(結果)
の略です。

 多くの方はある出来事(A)が起きたから、結果(C)がもたらされたと考えがちです。上司に怒られるという出来事(A)が起きたから、落ち込むという結果(C)がもたらされた、というふうにです。しかし、「上司に怒られた」という同じ出来事を通して、落ち込むという結果を取る人と、俄然やる気になるという結果を取る人がいます。出来事と結果の間には自分自身の物事の受け止め方「Brief」が働いているのです。

 人の心の中には、おぎゃーと生まれてから両親をはじめとする多くの人たちの影響を受けて大切に育んできたBriefがあります。でも、時にそのBriefが息苦しいものであれば、変えていく努力が必要です。

 「アドラー心理学」をご存じでしょうか?欧米ではフロイト、ユングと並び「心理学界の三大巨頭」と称され、絶大な支持を誇るアルフレッド・アドラーですが、日本ではあまりその存在を知られていませんでした。「人を動かす」のデール・カーネギーや「7つの習慣」のスティーブン・コヴィーら自己啓発のメンターたちにも多大な影響を与えたアドラーの思想は、昨年のAmazon 書籍年間ランキング「和書総合」第1位に輝き、60万部以上のセールスを記録している「嫌われる勇気~自己啓発の源流 アドラーの教え~ダイヤモンド社 岸見一郎 古賀史健共著」の影響もあり、ようやく日本でも知られるようになりました。

 アドラー心理学の一番の特徴は、人間の行動には目的がある「目的論」を取るところです。たとえば、「子どものころに虐待を受けたから、社会でうまくやっていけない」と考えるのがフロイト的な原因論であるのに対し、アドラー的な目的論では「社会に出て他者と関係を築きたくないから、子どものころに虐待を受けた記憶を持ち出す」と考えます。

 もちろん、過去に起こった出来事は、あなたの性格の形成に影響を与えていることは否定できません。しかし、虐待を受けた子どもの全員が引きこもりになるか、というと答えはNOです。社会に出るのが辛いから引きこもりという状況を選んでいる、そのために過去の出来事を利用している、と言うのがアドラーの考え方です。

 アドラーが残した言葉に、「遺伝や育った環境は、単なる素材でしかない。その素材を使って、住みにくい家を建てるか、住みやすい家を建てるかは、あなた自身が決めればいい」というものがあります。また、「『やる気がなくなった』のではない。『やる気をなくす』という決断を自分でしただけだ。『変われない』のではない。『変わらない』という決断を自分でしているだけだ」という言葉も。

 トラウマを否定するアドラーの言葉は、時に冷たく感じられるかもしれません。しかし、過去に縛られること無く、「今の私」小さな決心が将来の自分を変えていってくれると信じてみませんか?勇気の心理学とも言われるアドラー心理学、「勇気」とは困難を克服する活力を与えること。まずは自分自身を勇気づけて、周囲の人を勇気づけていけるあなたに成長してみましょう。

本誌:2015年9.14号 17ページ

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