WEB VISION OKAYAMA

連載記事

ブランド・ロイヤルティ3

 立命館大学のMBAの学生たちにサービスとは何かを肌で理解させるために、ザ・リッツ・カールトンのクラブ・フロアに宿泊させた経験がある。学生の一人がこのホテルの経営者と親しく、閑散期の2月に学生20人ほどが宿泊体験とサービス責任者の方から講義を受けるというプログラムである。

 ご存知のようにこのホテルはサービスのレベルの高さで世界的に有名である。一部の学生は何度か宿泊経験はあったが、多くの学生はこのホテルのクラブ・フロアへの宿泊は初めてであった。驚いたことに、宿泊のチェックインをする段階で全員の名前を係の方が覚えていた。講義の時にこのフロアの責任者にどうすれば名前を覚えられるのか聞いたが、とにかくこのホテルでは覚えてしまうのが決まりであると説明された。

 筆者はコーヒーが好きでコーヒーを度々飲むが、クリームではなく牛乳を入れて飲むのが好きである。このクラブ・フロアの無料のサービスでコーヒーを飲んだのだが、2回目以降は筆者の趣向を完全に理解し、クリームではなく牛乳が必ず出された。おもてなしもここまでくれば記憶に残り、ブランド化に大いに役立つ。

 ザ・リッツ・カールトンのサービスの基本であるクレドである。クレドとはミッションを達成するための価値観であり、通常「信条」と訳される。ザ・リッツ・カールトンのクレドは次のようになっている。

・ザ・リッツ・カールトンはお客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています。
・私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ、そして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。
・ザ・リッツ・カールトンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です。

 そのクレドを実現するために従業員のモットーとして有名な“We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen”
がある。

 直訳すれば「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」となる。従業員は召使であるという「サーバント的サービス」ではなく、ある意味お客様と対等な立場で優れた「おもてなし」を提供するという考え方に立脚している。「ダウントン・アビー」で繰り広げられるサーバントによる究極のサービスではなく、優れた教養に満ち溢れる紳士淑女がお客様である紳士淑女に対等の立場で究極のサービスを提供する。ここにこのザ・リッツ・カールトンのサービスの秘訣があるのだろう。それはパリで1898年に創業されたオテル・リッツ・パリからアメリカに移り、ザ・リッツ・カールトンとして発展を遂げアメリカ的民主主義の考えを取り入れたサービスの考え方を発展させたものなのかもしれない。

 ザ・リッツ・カールトンではお客様にサプライズのあるおもてなしを届けるために上司の許可なく約20万円までの支出権限が従業員に与えられている。例えば、結婚記念日に宿泊している夫婦には担当の従業員が高価なシャンパンを部屋にお届けすることもある。筆者の知人は東京でコンサルタントをしているが、大阪出張の時はこのホテルを定宿としている。理由はやはり彼のこのホテルでのサービスの体験にある。彼はこのホテルにチェックインし、いつもするように部屋の中の時計などの配置を自分の好みに置き換えた。驚いたことに2度目以降は必ず自分の使い易いように備品が配置されているという。

 顧客の期待を大きく上回るサービスを「ディライト」という。ブランド創りにはこのように通り一遍のマニュアルではなく顧客の期待を大きく上回るようなサービスが必要である。

 アマン東京が2014年12月にオープンした。このホテルはザ・リッツ・カールトンを上回るサービスを提供すると言われている。いつか行ってみたいと思っている。

本誌:2015年4.6号 23ページ

PAGETOP