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 前回のケースに基づき具体的にどのようなブランド展開ができるか考えてみたい。このアイデアを考えるのはどちらかというと右脳の働きかもしれないが、そのベースとなるのは左脳である。ロレアルの今日の隆盛を築いた前CEOのリンゼイ・オーウェン・ジョーンズは「ポエットとペザント」が重要であると言っている。「詩人と農夫」という意味である。詩人は右脳であり、農夫は着実に実行できる地に足のついた左脳という喩である。右脳と左脳をフル回転させて考えてみたい。

 案の①は素直に「創業天正8年(1580年)片岡屋豆腐」である。パッケージもそれに相応しいデザインで家紋の丸に方喰をいれてもよいかもしれない。少なくともかなりの歴史を感じさせるだろう。案の②は農家の杉山を強調する案である。勿論社名も入れるが(入れなければならないが)表面のデザインで「鏡野の農家杉山の栽培した自然薯入り」を強調する案である。分かりやすくするために杉山と自然薯のイラストを入れることとする。案の③は「山のうなぎ」を強調する「山のうなぎとうふ」である。自然薯がウナギのように見えるイラストを入れれば分かりやすいかもしれない。いずれにしても「とうふ」と「うなぎ」はかなり連想の距離(ズレ)がある。はっとする驚きがあるかもしれない。案の④は「投馬国とうふ」である。津山が元々は「苫」と言っていたことは前回述べた。魏志倭人伝の中の邪馬台国に次ぐ大国は投馬国であり、吉備国は投馬国であるという学説もある。魏志倭人伝のころには美作国も分割される前であり、現在の姫路から福山、北は津山一帯が吉備国だったのであろう。吉備国を投馬国と考え、津山が元々は苫と呼ばれていたことに敬意を表し、この「投馬国とうふ」を第4案としたい。

 マーケティングでは「会長の妻がキーパーソンである」とのジョークがある。いろいろな消費者調査を重ねて最終の取締役会に提案しても、会長の「家内に聴いたらこの商品の香りがよくない」との一言で時間をかけて調査し積み重ねてきた提案の全てが気泡に帰すことの喩である。

 実務の現場ではこのようなこともありうるかもしれないが、オーソドックスにはやはり丁寧な消費者調査をすべきである。「消費者の声を聴け」がマーケティングの鉄則である。次に大切なことは対象とする消費者が誰なのかということである。仮に岡山でしか販売しない場合、東京とか大阪の消費者調査をしても無意味である。岡山で購入してくれそうな消費者、例えば30代から60代くらいの女性の消費者を対象に選定すべきである。もう一つ大切なことがある。先程の4案だけではなくベンチマークにする競合品を2~3選んで一緒に消費者調査をすべきである。調査の方法としてできれば定量調査は入れた方がよいが、単に多くの人に支持されたからと言って一番高い得票の名称で決定するのは必ずしもよいことではない。消費者がどのような想いでそれぞれの4案をとらえているかしっかり把握しておきたい。そのためにグループインタビューを取り入れて定性的分析を加えるとよい。そうしなければそれぞれの案についての消費者の心の想いが理解できなくなる。数字だけに頼ることは危険である。

 仮に定量調査の結果②が一番、③が二番、①が三番、④が四番だったと仮定しよう。調査の結果を全て勘案して②を採用すべきかどうかはマーケティングの責任者やCEOはしっかり考えるべきである。恐らく「いいちこ」も多くの案の一つであり、これは河北秀也氏が選んだに違いない。ひょっとすると③の「山のうなぎとうふ」が一番良いかもしれない。グループインタビューの消費者の心の声をよく聴き、どれが一番良いかをマーケッターはしっかり考えて決定する必要がある。「時代の風」を的確に捉えられるかどうかは重要なマーケッターの資質である。

本誌:2014年11.3号 21ページ

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