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ポジショニング 2

 ポジショニング戦略とは分かりやすく言えば消費者の頭の中でブランドをどのような形で記憶させるかという戦略である。アメリカのGM(ゼネラルモーターズ)の高級車ブランドのクライスラーは、ベンツやBMWやレクサスと並ぶ高級ブランドとして消費者に認知してもらいたいと考えているに違いない。恐らくベンツやBMWにすれば世界の高級車ブランドはドイツ車であり、アメリカや日本が造った高級車と一緒にして欲しくないと考えているかもしれない。BMWは「究極のドライビングマシン」というコピーを長年使用しており、高級車のポジショニングを確かなものにしている。

 レクサスはトヨタがベンツやBMWと戦うために企業の総力を挙げて取り組んだトヨタを冠さない高級車ブランドである。車内の振動や静けさなど100を超える項目全てで世界一の品質レベルを達成したといわれている。また、販売についても従来にはない日本の「オモテナシ」を取り入れた。アメリカのレクサスの戦略については東京水産大学(現東京海洋大学)出身の東郷行泰氏の『アメリカに夢を売った男』に詳しい。元々高級車をトヨタの名前を冠さないで造ることには本社は反対であった。それを説得し、商標問題のリスクを抱えながらレクサスという名称で突っ走った東郷氏はトヨタでは異質の経営者だったのだと思う。しかし、同時にそのような異才を採用し、活用したトヨタも懐の深い会社だと言える。東郷氏は自ら小型飛行機を操縦して全米を駆け巡った愉快な経営者でもある。

 「いいちこ」ブランドは恐らくアルコールを飲まない人も知っている麦焼酎のブランドである。しかし、このブランドの開発メーカーである三和酒類株式会社を知っている(覚えている)人は少ないに違いない。元々日本酒のメーカーであったが、大手酒造メーカーが九州に進出し価格競争が激化した中で清酒から焼酎に進出し成功を収めた。ネーミングの「いいちこ」は「いいですよ」という大分の方言から採用された。この「いいちこ」のデザイン、コミュニケーション全般は河北秀也氏が一手に担っている。河北氏は久留米出身で東京芸術大学教授である。ポジショニングを取るためには消費者に同じイメージを継続して発信することが重要であるが、たった1人のクリエーターが全てを担っていることでより明快なメッセージが伝わってくる。

 1958年創業の三和酒類というコーポレートネームを前面に打ち出すのか、それとも、プロダクトネームの「いいちこ」だけで戦略展開していくのかも大きな鍵となる。ポジショニングをとるために大切なポイントは「あれもこれも」戦略ではだめだということである。消費者は情報の洪水の中で生きている。消費者のマインドの中にしっかり入っていくためにも尖ったシンプルなメッセージ、覚えやすい記憶に残るネーミング、好感を得るパッケジーングなど全てのコミュニケーション戦略が同じトーン&マナーで届くことが重要である。

 禅には放下著という言葉がある。禅では、先ず形(身)を整え、次に呼吸を整え、最後に心を整えるという段階になる。最後の段階に入ればそれは「無」の境地に到達することになる。放下著とは心を含めた全てを捨て去りその「無」の境地に到達することを言う。

 地域ブランドや企業のブランド戦略に関係させていただいていつも感じることはこの絞り込みが難しいということである。地域や企業は歴史や文化を背負っている。そのため、ついついあれもこれもと考えてしまいがちである。禅の教えのように全てを捨て去るという気迫で1点に絞り込むことが成功への最も近い方法だと思う。特に観光戦略においては行政がからむために、地域への配慮が邪魔をして多くの要素を取り込んだ曖昧な戦略になりがちである。岡山の地には世界遺産はない。県民200万人が心を1つにして例えば旧閑谷学校を教育県としてのシンボルとして進めれば可能性はゼロではないのではと考える。仮に世界遺産に登録されなくても岡山県が「教育県」としてのポジショニングを取れれば大きな価値があると考えるがどうだろうか。

 コミュニケーション予算も限られている中で「あれもこれも」という戦略は総花的になり結局メッセージ性もなくなりがちである。三和酒類の場合、恐らく清酒に対抗する新たな焼酎ブランドが作り上げられ「いいちこ」さえ浸透すればよいという戦略からスタートしたのだと思う。あれもこれもではなく全てを削ぎ落とし1つだけ際立った特徴を作り上げることが成功の鍵となる。禅の教えの放下著を思い起こし消費者目線で持っている資産を棚卸し1つに絞り込むという戦略が望ましい。繰り返しになるが、成功するためには1点突破しかない。

本誌:2014年6.2号 27ページ

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