WEB VISION OKAYAMA

連載記事

水辺のカフェ

 介護という忙しくも退屈な日々を過ごしていると用事もないのに遠くの友人に長電話して「最近何かおもしろいことない?」と聞くのが口癖になりました。どいつもこいつも「ないっ!」のひとことで終わり。そんなとき強い味方になってくれるのが岡山のタウン情報誌です。

 タウン情報誌の人気企画といえば喫茶店特集です。どこの店も素敵に見え一度は出かけてみたい気分にさせられます。しかしこういう特集に繰り返し登場する喫茶店は往々にして店主の「こだわり」が顔に出ていて何だか一見(いちげん)さんとして行くのがためらわれます。

 でも抵抗できない喫茶店がありました。酒津の「水辺のカフェ 三宅商店」です。酒津という地名は桜の名所として子どものころからよく耳にした地名ですが、岡山市郊外育ちの私には土地勘がなく今まで一度も行ったことがありません。言わば幻の名所である酒津。情報誌に掲載された湾曲した水路に沿って水の上にせり出したように見えるカフェの写真が私を強烈に誘います。

 スマホアプリのナビが「目的地に到着しました」というのに我が愛車は高梁川沿いの土手の上を走っていて、本当の目的地は酒津公園をクネクネとすり抜けた分かりにくいところにありました。よくタウン情報誌で紹介される店が「隠れ家的○○」と言う割にはデカデカと派手な看板を掲げた俗っぽい店だったりするものですが、三宅商店は確かにナビをも騙す本当の隠れ家でした。

 人気の水辺が見えるカウンター席は満席だったので靴を脱いで2階の座敷に上がりました。開け放った窓から心地よい風が8畳と6畳の続き間を流れていきます。用水路を流れる水の音と高梁川堰堤の道路を走る車の遠い騒音が不思議によくマッチして心が静まってきます。

 家に帰ってからあらためて酒津の位置を地図で調べてみました。なんと酒津公園はしょっちゅう出かけるイオンモール倉敷の裏手に位置していました。そういえばナビが盛んにイオンの方向に私を誘導しているはずでした。私は酒津は総社にあると昔から思い描いていて清音(きよね)の方から高梁川に沿って大きく回り込んでいたのです。

 素敵な隠れ家は案外身近なところにあるものですね。今度遠くの友人を誘ってやろうと思います。

本誌:2013年6.17号 13ページ

PAGETOP