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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

黙読と頭脳回路

 私は子どものころから本を読むのがとても遅く、その習性は今も変わりません。ところが速読が得意な人はいちいち目で行を追わないうえ、黙読時、発話しようとする口の動きを禁じている、と何かに書いてありました。確かに私は黙読しているとき声こそ外に出さないけれど音読と同じ読み方をしています。

 でもちょっと安心したのは日本人の8割は口の中をもごもごさせながら黙読しているそうで、本当の黙読を身につけるためには、読んでいる文章と無関係の言葉、例えば無意味な”aeiou”を口の中で唱えるとか。実際はそう簡単にはいきません。第一、文章を読むのがものすごく苦痛に感じられるうえに、文の意味の把握ができません。

 こういう能力はもっと幼いころ、たぶん小学校低学年のころに訓練したら何とかなるのか、あるいは統計的に見て2割の人にだけ許された天賦の才なのか、私にとっては謎。そもそもなぜ人生の晩年になってこんなことが気になるようになったのかというと、先日、中学校時代の幼なじみの女性を誘って、というか誘われて、かなり難解な哲学のテキスト30㌻余りを読んだときのこと。コロナ感染を避けて旭川の河川敷の石段に腰掛けて、幼なじみといっしょに哲学書を読む……素敵!思わずテンションが上がります。さわやかな川風に吹かれ、私は得意気に早口でテキストを読み上げていきました。

 すると、彼女は私の音読をさえぎってこう言いました。「黙って読みません? だってその方がずっと早く読めるでしょ?」。テキストを選んだのは私の方で、これまで最後まで読破できずにいたものです。ところが初めて読んだ彼女の方がずっと早く読んで、しかも論点を正確に把握していることはすぐ分かりました。

 私は思い知らされました。勉強ができる子って高性能のCPU(中央演算処理装置)を積んだパソコンといっしょなんだと。秒数当たりの命令処理能力が凡人とは比較にならないくらい速い。情報をメモリーに読み書きするスピードも速い。私にとって地獄だった高校の数学や物理も彼女にとっては「どこが難しいのかそれが分からない」……。ぽんこつCPUの私にはショックでした。黙読のスピードを支えるのはそれを裏付ける頭脳回路の性能に依るところが大きいのでは、と絶望的な気分です。

本誌:2020年6月15日号 11ページ

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