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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

老いの加速を楽しむ(下)

 年々、時が過ぎゆくのが早くなるのは、親の介護が終わったいま1日の大半を無為に過ごしているからに他なりません。働き盛りのころ、いろんな問題が次から次へとわき出てきて、毎日を忙しく過ごしていたころのことを思い返してみると時間不足に悩んでいたのとは裏腹に当時は1日、1週間、ひと月、1年がずいぶん充実して長かったという印象に置き換わっているのが不思議です。

 時間とは絶対的なものではなく「ものごとが変化した積算量そのもの」と定義していいでしょう。変化量が多いと時間は豊かであり、時計が知らせる同じ1時間もずいぶん拡張して感じられるはずです。逆にこれといった事件もなく毎日ぼんやり生きていれば時間の流れは光陰矢の如し。だからといって加速する時間にブレーキをかけるのは難しく、こうなったら時間に抗うことは諦め、むしろ流れに身をまかせてそのときどきを楽しむほかありません。

 今回30年ぶりにハワイでカナダの従姉たちと落ち合って、何も考えず、涼風に吹かれるまま数日を過ごすことに決めたのは、老いに慣れるためのいい機会ではないか、およそこんなことを考えながら旅の計画を立てました。

 ところが物事は言うほど単純ではなく、間近に迫ったハワイ旅行に暗雲が立ちこめてきました。武漢発の新型肺炎の爆発がいっこうに収束する気配を見せず、それに加えてアメリカでは十数年ぶりにインフルエンザが猛威をふるい、すでに1万人以上の犠牲者が出ています。実際怖いのは新型コロナウィルスよりもインフルエンザかもしれません。

 万一行きの飛行機の中で熱でも出たら30年前ホノルルの空港で母がお世話になった鎖付きの別室にぶち込まれるかもしれない、そもそも新型ウィルスの蔓延に効果的な対策が取れない国からの旅行者に対しアメリカが突然出入国禁止措置を発令したら……気楽に決めたハワイ旅行もずいぶん先行き不透明になりました。

 こうなっては旅を前にぼんやりしている場合ではなく、いま一度頭を働かせ、時間を有効に活用して段取りを決めなくてはなりません。ダイヤモンドプリンセス号のような最悪の事態を想定するとドタキャンも賢明な判断かもしれません。私がどこかで足止めを食らうと留守番役の12匹の愛猫が餓死しますから。

本誌:2020年2月24日号 14ページ

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