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連載記事山田響子の魅力を引き出すコミュニケーション術

人前で話すための準備

 あなたは人前で話すのが得意ですか?いや、苦手なんだよ。スピーチやプレゼンテーションの役割が回ってきたらちょっと憂鬱になってしまうんだ、と思われたかもしれません。その反面、得意とまでも言わないけれど苦手ではない、と感じた方。むしろ得意だ、困っていないと感じた方もいたかもしれません。

 人前で話すことをご指導していると、じつは厄介なのは後者なのです。人前で話すことに困っていないと自覚している人ほど、伝え下手であることが多いのです。それはなぜか、計画しないでも即興で話せると思っている方が多いからです。

 まず、スピーチというのは「強制的に時間を奪うこと」だということを認識していただきたいのです。聞き手はつまらなくても意味が分からなくても「聞く」ことを避けられません。厄介なことに、立場が上になればなるほど、聞き手は「聞いているふり」「伝わったふり」をしてくれますので、話し手は自分が時間を奪っていることに気がつかないのです。私は司会者として、これまでたくさんのスピーチに立ち会ってきました。おそらく数万の単位のスピーチを聞いてきました。緊張してしどろもどろになりながらも懸命に話した方と、無計画ながらその場で思いついたことを話してうまくまとめたつもりの方と、どちらがより伝わるのかというと前者であったりすることが多いのです。どれだけ準備をしたか、どれだけの意識を向けたかこそが、スピーチの出来を左右するからです。

 短時間でも、人前で話す機会があるなら、必ず設計をしてください。設計なしにマイクの前に立ってしまうと時間泥棒になりかねません。その設計の際に必要なのが「何のために話すのか」という目的地が決まっていること。結婚式に主賓として招かれてスピーチを依頼されたと仮定しましょう。あなたのスピーチの目的はなんでしょうか。従業員である彼の人柄をこの場で伝えること、その人柄により彼に初めて会う人にも安心してもらうこと、彼の親御さんに華を持たせること、自分の経験や知識の中で何かこの場で贈りたい言葉があればそれを贈り、これからの生活の糧にしてもらうこと、などでしょうか。

 そうであれば、伝えるべきエピソードや話すべきでない話題などが見えてきます。ちょっとこの辺で笑いが欲しいな、などと思いついて話したエピソードが苦笑いを生むようなこともなくなります。「何のために」が定まるから「何を」話すべきなのかが見えてくるのです。

 そして、話すべき内容を集めていく作業になります。自分の知っている彼のエピソード、周囲の人に聞いたエピソード、自分自身が結婚生活から学んだこと、本や映画で見聞きして心が動かされたこと、それらのパーツを集めていきます。そして、10や20と集めたパーツの中から、何を選んで何を捨てるべきかを絞り込んでいきます。

 言うことを決めるためには、集めたものを絞り込んで捨てる作業が大切なのです。即興でペラペラ喋っていては、単にパーツを思いついた順に伝えていることになってしまい、結局何を言ったのか何も印象に残らないものになってしまいがちです。集めて並べて絞り込んで捨てるから、残ったものに熱量が乗るのです。

 ここまでお伝えすると、急に振られても話が上手な人がいるじゃないか、と言われます。そう、その方はいかにもその場で思いついたことをスラスラと話しているように見えるのです。だからその場で思いついたことをスラスラと話す方が上級者でかっこいいという誤解が生まれます。その方達はいつもパーツが準備された状態にあるのです。そしてその場の目的を瞬時に判断し、そのパーツから何を選びとって何を言うべきか頭の中だけで即座に組み立てられるのです。組み立てていないのではなく、組み立てが即座に頭の中だけでできるのです。その域に達するまではトレーニングとしてまず組み立てをしっかりすることから始めていただきたいのです。

本誌:2020年1月20日号 21ページ

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