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連載記事杉山慎策の経営学考察

山田方谷7

 多くの研究書は方谷を「財政の巨人」「財務の教科書」などと形容することが多い。ここで「財政」とは何かを再度明確にしておきたい。財務省は「財政」を次のように定義している:

     「私たちが健康で豊かな生活を送るためには、国や地方団体に、学校教育や医療など、
     様々な「公共サービス」を提供してもらう必要があります。しかし、国などが公共サービスを
     提供するにはお金が必要です。そのためのお金を国民みんなが出し合って(税金)、みん
     なの生活に役立つことに使っていく活動を「財政」といいます。」

 つまり、豊かな生活をするために社会の構成員(含む企業や個人など)から税金を集め、それを社会の為に使用することを「財政」と言う。現在日本の歳入は少子高齢化のために大きく不足し、特にバブル崩壊後「鰐の口」と言われるように歳入と歳出のギャップが広がっている。このギャップは公債により埋められており、その累積債務はGDPの2倍を超えている。主たる原因は年金や医療費などの社会保障費の増大にある。いずれにしても、「財政」は方谷の言葉を使えば「ことの内」のことである。

 そもそも方谷は理財論で「ことの外に立つことの重要性」を強調し、「ことの外に立つこと」で備中松山藩の改革を成し遂げた。いくらコップの中の水をかき混ぜても水は増えない。方谷は確かに旧藩札を回収し、元締役兼吟味役に就任して4年目に新札永札を発行した。新たな永札に対して信用があれば、信用創造により大きな原資を生み出し、そのことにより経済を活性化させられたかも知れない。思い出して頂きたいのは、方谷が経済改革に取り組んだ時には一年間の歳入の10倍の借金があったことである。藩札を発行するためには準備金も必要であり、かつ、方谷の場合は旧札の回収費用もあり、多くの資金が必要とされたことは間違いない。

 財政政策で経済の活性化を図る典型的な例は、国債を発行することで資金を集め、高速道路や橋などの公共事業を実施することである。方谷のやった財政政策はこのこととは真逆の経済政策であり、製鉄産業などの経済活性化により資金を獲得し旧札を回収した。確かに新札を発行することで資金を集めて橋や堤防などの公共事業をしたかも知れないが、それも方谷が責任者になって4年後のことである。以上のことから方谷を「財政の達人」と呼ぶのは無理があり、やはり「経営改革者」と呼ぶべきである。

 方谷については思想家として、また、教育者として多くの研究書が書かれている。筆者のように経営学に関わっているものにとって一番の関心は、方谷がどのようにして実質6年間という非常に短期間に借金まみれの備中松山藩を潤沢な資金的ゆとりのある藩に生まれ変わらせたのかである。筆者は常日頃学生たちと「どのようにすれば経営改革ができ、赤字経営から脱却できるか」を議論している。「経営学で学ぶ所謂経営理論は本当に役に立っているのか。」このような問いは企業経営に関わる研究者としては避けては通れない。過去6回方谷の経営改革を見てきたが、方谷の改革においては、偉大と言われている経営理論が正に実践され、結果を残している。方谷は備中松山藩の改革の責任者に任命されて直ぐ脇目も振らず成果を挙げられるところに集中投資をし、実績を上げたと判断される。

 方谷が偉大な思想家であり、教育者であり、政治の参謀であったことは間違いない。明治時代になり官営の八幡製鉄所や富士製鉄所が作られる前の江戸時代末期において、備中松山は日本で最大の製鉄所を有していた町の一つだったのである。

 方谷が則った経営理論の法則は以下の8つである。

 【法則の1 組織が倒産するのは赤字だからではなく、資金が途絶えるからである】

 【法則の2 改革には「理念」や「行動規範」が重要である】

 【法則の3 改革には正確な情報を組織の構成員全員に開示することが重要である】

 【法則の4 改革には理財の外のイノベーションが重要である】

 【法則の5 改革の初期段階では「入るを量りて出ずるを制す」必要がある】

 【法則の6 経営戦略では選択と集中を進めるターンパイク理論が有効である。】

 【法則の7 資源が限られている場合、一点突破横展開が最も有効なブランド戦略となる。】

 【法則の8 地域名を上手に活用すると強力なブランド戦略となる。】

 方谷は間違いなく偉大な「経営改革者」であるというのが筆者の結論である。

本誌:2019年12月2日号 21ページ

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