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ナイキ

 ナイキと言うブランド名はギリシャ神話の勝利の女神の“NIKE”(ニケ)に由来している。創業者のフィル・ナイトがスタンフォード大学のMBA卒業後、バック・パッカーとして世界旅行をした際にギリシャでこのニケの神殿で閃きを得ていた。勿論、彼の最初の訪問地は日本で、そこで神戸のオニツカを訪問し、アメリカ西海岸の代理店の権利と靴を1000ドル分(約300足)輸入することに成功した。その後香港、フィリピン、ベトナムなどからカトマンズ、ケニア、カイロを回り、ヨーロッパを巡ってオレゴンに戻って行った。

 最初に作り上げた会社であるブルー・リボン・スポーツ(BRS)からナイキという会社に名称変更をする際、社名についていろいろとアイデアを練った。スタンフォード大学のMBAの同級生で第一号正社員のジェフ・ジョンソンが夢の中でこの女神のニケが出てきたことで“NIKE”を提案した。前述の閃きのこともあり、フィル・ナイトも気に入って“NIKE”を「ニケ」ではなく「ナイキ」と呼ぶことで決定した。

 ナイキのミッションは、
“To bring inspiration and innovation to every athlete in the world”
である。直訳すると「世界中のアスリートたちにインスピレーションとイノベーションをもたらす」という意味になる。つまり、ナイキのシューズを履くとあたかも100mを10秒以内で走り抜けられるというインスピレーションが得られることを意味する。ナイキはスポーツ用のシューズからスタートしているが、通勤用の革靴やハイヒールなどに代わりナイキのシューズを履くことが時代の先端を行くというイメージを浸透させることでブランド確立に成功している。

 フィル・ナイトの自伝であるこの本は2016年にアメリカで発売され、日本語版が2017年に発売された。「靴の犬」はこの本の中で「靴に憑りつかれた人」と定義されている。世界的戦略コンサルティング会社であるボストン・コンサルティングが作ったPPMという理論がある。市場の成長性と市場シェアのマトリックスから戦略を決定するというものである。成長性も高く市場シェアも高いポジションを「スター:“Star”」と言う。この逆の成長性も低く市場シェアも低いポジションを「負け犬:“Underdog”」と言う。今年は戌年であるが、この「犬」というのは日本語で私たちが日ごろ使う「弱虫」とか「泣き虫」の「虫」に似ている。フィル・ナイトはオレゴン大学からスタンフォード大学のMBAを卒業しているエリートであるが、この自伝を読むと彼が父親やコーチのバウアーマンなどに抱いていたコンプレックスを読み取ることができる。実際株式の上場も自らが株主の前で説明する自信がないことで長く先送りされた。

 実際に経営状態は長く綱渡りの状態が続き、売上が上がり過ぎると資金繰りに困るという状況が長く続いた。結局オニツカとの関係を絶ち日商岩井(現双日)が全面的に支援することで生き延び、今日のナイキの繁栄がもたらされた。日商岩井の当時の社長である速見優氏との関係は非常に強いものであり、日本訪問の度に熱海にあった速見氏の別荘でいろいろなことを語り合った。ナイキの成功にはオニツカや日商岩井など多くの日本企業とその中で働いていた社員が関係していたことを誇りに思わざるを得ない。

 オレゴン大学時代にスポーツ選手であったフィル・ナイトはコーチであったバウアーマンと一緒に日本のオニツカから靴を輸入することからスタートした。営業マンには一緒に陸上で戦っていた有力選手を雇い、彼らに営業をさせることで、多額のスポンサー費用を支払うことなく一流選手にナイキのシューズを履かせ、彼らが大会で優勝し、ナイキのロゴが活字や画面で目に付くことでブランドを確立して行った。勿論マイケル・ジョーダンなどの有名選手をスポークスパーソンとして契約しているが、これは資金繰りが潤沢になってからの戦略である。

 マイケル・ポーターの有名な競争戦略に①差異化、②コストリーダーシップ、③集中化の3つの基本戦略があるが、ナイキは運動シューズに集中することでブランド確立に成功している。多くの企業は売上が一定程度に達すると多角化に走る傾向があるが、成功するブランドを作り上げるには徹底した集中化戦略が求められる。古典的名著である『エクセレントカンパニー』の優良企業の8つの条件でも「基軸から離れない」という条件があることを明記しておきたい。

本誌:2018年2.5号 19ページ

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