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父が遺した自転車

 今年になってヒザ関節がますます痛むようになり整形外科で診てもらいました。病変は大したことはないが加齢に伴う筋力低下が進み太りすぎの体重がヒザに負担をかけている、とのことでした。さっそく始めたリハビリメニューのひとつに自転車こぎがあり、15分間ただ無心に重いペダルを踏むのが面倒。

 それなら通院を車から自転車に切り替えればいいと思いつき、昔父が愛用していた自転車を軒下の物置から引っぱり出しました。平成7年に購入したものらしく22年も経過しています。タイヤとチューブは朽ち果て、錆と汚れで粗大ごみ同然の自転車でしたが、一流品好みの父の遺品をごみに出すのも気が引けて、自転車に張られていたシールを頼りに購入店に電話してみました。するとすぐ軽トラで取りに来てくれその日のうちに修理が終わりました。

 4段変速、ベルトドライブの当時としては最新鋭の自転車だったと思います。そして何よりも驚いたのは22年間のほとんどの歳月を軒下で雨ざらしになっていたのにもかかわらず変速機やベルトは修理不用でちゃんと動きます。さすがはMade in Japanです。

 これまで車でしか行けないと思っていた喫茶店やスーパーが自転車に乗って出掛けてみると案外近くに感じられます。しかも景色や街のディテールをゆっくり見る余裕があります。まるで初めてみる街のように新鮮。高校生のころ自転車通学していたときには決して感じなかったフィーリングです。それはそうでしょう。

 高校時代、成績はいつも低空飛行、数学や物理はまったく理解できず教室ではいつもびくびく。スポーツも得意ではなく実技が苦痛。今でも高校時代の夢をみます。学校へ急いでいるのに自転車がちっとも進みません。ペダルが異様に重くこのままでは遅刻しそうな夢。雨が降るなか自転車のブレーキが効かず渋滞で止まっている車にぶつけてしまう夢。

 それが今や高校どころか大学も卒業し、仕事もやり終え、人生の卒業だって目に見えてきた!自転車に乗る感覚が全然違います。どこまでも楽しい、ひざの痛みも感じない、もはや受験の苦しみも介護の苦しみも兄弟との葛藤も何もない。これこそ今の自転車の限りない爽快感のみなもと。自転車を残してくれた親父ありがとう。

本誌:2017年2.6号 14ページ

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