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ネット売り上げとグロス売り上げ

 新しい国際会計基準が少しずつ浸透してきているようである。IFRSはInternational Financial Reporting Standardsの略である。IASB(The International Accounting Standards Board)国際会計基準審議会が制度設計を進め世界各国の基準を統合させていく予定である。2016年3月6日付の日本経済新聞によれば100社以上の企業が今年度IFRSに基づく国際会計基準を導入した決算報告をするとのことである。IFRSは後述するように多くの大切な変更点を含んでいる。最も大切にしている基本的な考え方は自己責任ですべてのステークホールダーに決算状況を開示することと、発表した決算諸表に対して説明責任を果たすことである。

 IFRSの変更点の中で特に売り上げについて述べてみたい。仮にこの会社を製造業としよう。売り上げはどの段階で正式な売り上げに認められるべきなのであろうか。お客様からオーダーをいただく。電話でもネットでもオーダーがいただけたと仮定しよう。このオーダーに基づき工場で製品が生産される。

 では売り上げはどの段階で認められるべきなのだろうか。①オーダーの入った時点、②オーダーに基づき工場で製品が生産された段階、③工場から出荷された段階、④お客様が商品を受領した段階、などが考えられる。筆者が企業で働いていた40年くらい前には電話でオーダーをいただきそれに基づきインボイスを発行し、商品を出荷した段階で売り上げと認識していた。つまり、発注に基づいた伝票の日付で売り上げが成立したと考えていた。IFRSではこの日付では売り上げとしては認められない。お客様が発注した商品をお客様が実際に受領して初めて売り上げとして認められる。

 多くの企業は市場で厳しい競争に晒されている。自社のシェアが業界の中でどのようになっているかが競争に勝っているか負けているか判断する重要な指標となる。通常シェアが大きければ大きいほどよいと考える。従って、売り上げは可能な限り大きい方がよいことになる。結論を先走ることになるが、IFRSではネット売り上げしか認めていないが、多くの日本企業はグロス売り上げを使用している。多くの日本企業はその膨張させた売り上げ(グロス売り上げ)でシェア争いをしている。

 少し具体的な例を挙げてこの仕組みを説明する。典型的な例はアルコール業界である。缶入りビールを購入するとしよう。通常消費者が購入した金額には酒税が含まれている。350mlで77円である。仮に購入した価格は215円だったとしよう。ビール会社はグロス売り上げでは215円を売り上げとする。ネット売り上げでは(215-77円=138円)を使用すべきなのである。実際には小売店のマージンなども入るので少し複雑になるが、グロスとネットの違いについてはご理解いただけたことと思う。

 酒税以外にもグロス売り上げを膨らませる方法がある。IFRSの基準ではリベートや値引きなどは販売経費として処理するのではなく売り上げから差し引いてネット売り上げにする。しかし、多くの日本企業はこれを販売経費として処理している。資生堂も依然として日本の会計基準を使用している。同社のリベートや値引きは実際にいくらか詳しく調べてはいない。海外売上比率が高くなっているので5%程度と仮定すると7672億円の売り上げは7200億円くらいになり、花王の化粧品売上の6078億円に近づく。花王はトヨタやソニー、キャノンなどと同様に早くからネット売り上げに変更した企業なのである。

 1円の売り上げは世界中の企業で同じ1円だとお考えになる方も多いと思うが、実は大きな違いがある。売り上げをできるだけ削ぎ落とし純粋な売り上げとして計上すべきことは言うまでもない。日本の会計基準が現状のままで変わらないということはありえない。遅かれ早かれIFRSは国内の会計基準に取り入れられるはずである。岡山の企業を強くするためにネット売り上げに変更してはどうだろうか。会計のような会社の管理システムを支える基本についてはアルゴリズム的にしっかりやるべきことを着実にやることが大切だと考える。

本誌:2016年夏季特別号 35ページ

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