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別格の果物、清水白桃

 果物は太古の時代からいつでもどこでも、熱帯から極地にいたるまで人類からこよなく愛されてきた食べ物です。牛肉や豚肉のように民族によって宗教的な禁忌扱いを受けることもなく、その土地や気候に適した果物が食卓に上ります。中でも日本は数多くの果物に恵まれ、とりわけ岡山は自他ともに果物王国の名をほしいままにしていますが、これは量より質において“岡山”がブランドになっているからでしょう。

 その岡山を代表するのがマスカット・オブ・アレキサンドリアと清水白桃です。ほぼ春から晩秋まで出荷されるマスカットに比べ、清水白桃は今でも7月下旬から8月上旬のわずかな期間しか出回りません。しかも本当においしいのは大きくふっくら色白に育ったものだけ。そんな最高級の桃はそれなりのお値段です。

 吉備路にある山手農協の直売所では高いものは1箱1万4000円でした。生産者にしてみれば気難しく手のかかる清水白桃を育てるにはそれだけの価格になるのは当然のことだと推察されます。

 皮肉なことに岡山に住んでいて毎年東京の知り合いに最高級の清水白桃をお中元に送っているのに肝心の送り主はどうも手が出ないのです。

 ところが先日近所のスーパーで“訳あり”の清水白桃が5個入った箱が積み上げられていました。たったの1200円! 箱の中をみると東京の知り合いに送ったものと色といい形といい何ら遜色ありません。しかも5分の1のお値段。ただ生育途中に付いてしまった傷跡の斑点がところどころあるのが“訳あり”の訳なのでしょう、捨て値です。迷わず1箱買って帰りました。お味は?

 どんな言葉で形容しても陳腐な表現になるのは致し方ありません。しかし、あえて言うと放縦というべき逸脱感。エロチックを超えてみだらな果物であります。最近数多く出回っている何々白桃の類が「どこか違う、何かもの足りない」と常に思わすのに対し、清水白桃はまさに別格。果物の王様に間違いありません。

 10年前、認知症が進行していた母に白桃を食べさせたら気管につまり救急搬送して命は取り留めましたが、それ以来私は桃がトラウマになって自分に対し桃を食べることを禁じていました。でももう時効です。母にも桃をジュースにして胃ろうから食べさせようと思います。

本誌:2016年夏季特別号 17ページ

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