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マーケティングの戦いは永遠

 世界展開をしている戦略コンサルティングの会社であるボストン・コンサルティング・グループを1963年に創設したブルース・ヘンダーソンは戦略論の大家として知られている。1989年に彼がハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表した論文の“The Origin of Strategy”(「戦略の起源」)は戦略論についての名論文の一つと言える。彼はこの論文で企業の革新を生物の進化と比較して論じている。この中で彼は“Marketing wars are forever. Market share is malarkey.”と述べている。意訳すると「マーケティング上の戦いは永遠に続く。マーケットシェアは出鱈目が多い」という意味になる。要するに「マーケットシェアだけを鵜呑みにすることは無駄である」と主張しているのである。”Malakey”はギリシア語が起源で「無意味」「出鱈目」のような強い俗語表現である。

 マーケットシェアはある定義されたカテゴリーの中のブランドの市場占有率を示している。従って、カテゴリーの定義によりどのようにでも解釈される。あるカテゴリーで競合と比較してどのような位置にあるかを分析し、加えて、どのような優位性があるかを絶えず把握しておく必要がある。ここでも基本はカテゴリーをどのように定義し、どのようにその中でのシェアを把握し、競合との優位性があるかどうかを絶えず検証し、戦略を展開しなければならないということである。シェアにも数量的見方と金額的見方がある。

 化粧品会社の両巨頭は資生堂と花王である。多くの方は資生堂は元々化粧品会社であり、日本の市場では圧倒的に資生堂がトップで花王が2位と考えられているのではないかと想像する。実際に2016年の開示されている実績を丹念に読み解くと下記のようになる。

(単位:億円、出典:2015年度の両者の決算発表資料による)
 ここで花王の化粧品売上は「ビューティー事業」と定義してある売り上げによる。また、資生堂は「化粧品事業」と定義されている売上を使用している。同じ化粧品市場でもロレアルでは石鹸の売り上げは化粧品売上に入れないが、プロクター&ギャンブルではアイボリーのような石鹸の著名ブランドを化粧品の売り上げに含めている。同じようなカテゴリーでも内容を吟味しなければならないが、ここでは資生堂と花王の場合ほぼこの化粧品のカテゴリーの定義は同一と仮定しよう。

 この表から何が読み取れるのだろうか。日本の市場だけでみると花王が第1位の化粧品メーカーであり、資生堂は第2位となる。海外の売り上げも加えた化粧品の総売上では海外売り上げの大きい資生堂が1位となる。ヘンダーソンの言う「マーケットシェアは出鱈目」ということの意味をしっかり吟味する必要がある。このようなカテゴリーをどのように定義し、その中で競合との比較を絶えずすることが戦略の基本となる。

 FMCG(Fast Moving Consumer Goods)の産業においては自社のホームマーケットにおいて自社の依拠するカテゴリーでトップメーカーであることが重要視される。何故なら、厳しい市場競争の中で生き延びるために商品開発や研究開発はホームマーケットで行われることが多く、その市場で1位のマーケットシェアを持つことはそれだけ商品開発や研究開発に抜きん出ておりグローバル展開をしても十分競争を維持できると考えられるからである。市場シェアが高ければそれだけ商品開発や研究開発に費用も投下でき、かつ、優秀な人材も確保できると考えてもよい。資生堂は海外展開を早くから進めていたために花王より化粧品の総売り上げではトップを維持しているが、しかし、日本市場だけで見れば既に2位のポジションにある。世界展開をこれから進めて行くためにもホームマーケットである国内のシェアでトップになることが戦略上非常に重要な課題であることは言うまでもない。

本誌:2016年7.4号 17ページ

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