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天皇皇后両陛下比島慰霊の旅

 ご高齢の両陛下が太平洋戦争最大の激戦地であったフィリピンまで、50万柱を超える戦没者の霊を慰める旅に出られました。実際フィリピンでの戦いの悲惨さは想像を絶するものがあり、敵味方問わず、今なお多くの遺族が決して癒されることのない苦悩を抱えたまま生きています。

 私も叔父(母の弟)をレイテ島のカンギポットという山で亡くしています。母のためにも一度は慰霊のためにレイテ島に行ってみたいのですが、現在のフィリピンでもいったんマニラを離れると治安が悪くとうてい1人でふらりと出掛けられるような状況ではありません。

 実は今から20年ほど前、叔父の慰霊のためにマニラまで出掛けたことがあります。首都マニラでもホテルや商店の入口は実弾を込めた銃を持った警備員が固めているような物騒きわまりない大都市。やっとのことでマニラ近郊の激戦地コレヒドール島を訪問し、そこで拾った石を遺骨代わりに日本に持ち帰りました。

 20歳そこそこの叔父が所属部隊もろとも飢えと病に苦しみ全滅していった様子は大岡昇平の「レイテ戦記」(中公文庫)に実に詳細に記録されています。資料を含め上中下3巻、総ページ数1400枚もの死の記録を読むことは苦痛以外の何ものでもありません。

 結局、曲がりなりにもフィリピンまで出掛けても個人では島から島への移動もままならず、戦記も心がふさがって読めません。戦没者の慰霊はそれほど困難なことです。

 ところがこの度の両陛下の慰霊の旅の様子をテレビで見て本当に救われた気持ちになることができました。

 両陛下は慰霊碑に菊の花を手向けられたあと遺族の方々と実に長い時間お話になられていました。列席した人々は大感激の様子で「父(夫、兄……)もさぞ喜んでいることでしょう」と口々に話していました。

 いかなる人のどんな言葉をもってしても、あるいは国の金銭的な弔意にも慰められることがなかった遺族の深い喪失感、無念をただ天皇のみが慰謝できるという奇蹟を垣間見た気がしました。現在の憲法のもと天皇は神ではなく人間であることを疑う人はいません。しかし両陛下が戦跡や各地の被災地で人々を慰められているお姿を拝見するたびに、これは人間ワザではない、これこそ正真正銘神ワザだと思わずにはいられません。

本誌:2016年2.15号 17ページ

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