WEB VISION OKAYAMA

連載記事

名前4

 ブランド名の重要性について考えてきたが、このテーマの重要性は強調しても強調しきれない。特に、ベンチャー企業やこれから大きく伸びようとする中小企業にとってブランド戦略は最重要課題ととらえていただきたい。

 ポイントを説明するために具体的なケースを考えてみたい。最近は健康志向の高まりもあって豆腐ブームである。例えば、「高野山ごま豆腐」「南禅寺豆腐屋」「沖縄ジーマーミ豆腐」「男前」「ざる豆腐」など、あるメーカーのブランドが突然にナショナルブランドとなり全国ネットの流通に乗り地域ブランドを攻めてくる。これは一昔前にある酢のメーカーが「金曜日は手巻きの日」というキャンペーンを打ってあっという間に全国ブランドとなり地域に存在していた同業者を苦境に追いやったのに似ている。

 豆腐屋という業態を一つのケースにブランド名のあり方について少し考えてみたい。この会社は①「豆腐」を専業とする老舗メーカーとする②創業は天正8年(1580年)とする③会社名は片岡屋(これは我家の屋号であり「かとうか」と読む)とする④自然薯入りの豆腐を「自然薯豆腐」として新発売を予定しているとする⑤本社は岡山県津山市とする―というような状態だと仮定しよう。皆さんはどのようなブランド戦略を展開されるだろうか。

 恐らく時代は戦国時代の終わりの頃。日本の人口は1000万人程度。江戸幕藩体制が始まる少し前の頃である。当時「津山」は「苫」と言われていたが、1603年に森蘭丸の末弟の森忠政が津山に入り、名前を「苫」から「津山」(つまり山の中の港のあるまち)に変えた。恐らく人口は1万人程度。わが先祖の豆腐屋は地域の独占状態だったと仮定する。

 1960年・70年代に流通が全国展開をするまでは地域の店は長年の伝統と顧客に守られていた。だから、社名を強調する必要もなく、「豆腐屋」であることだけを主張しておけば地域の住民に豆腐を買ってもらうことができた。津山圏以外からの競争は皆無であった。このような状態の場合自社の商品である「豆腐」を強調しておけばブランド戦略は恐らく合格であった。

 流通の全国展開にともない突然に大きな変化が生まれてきた。一つは流通との販売契約に基づき多量の取引と引き換えに過激に安い「豆腐」が店頭で販売されるようになったことである。生産量が全く異なるので、価格競争に入ると地域ブランドは戦えなくなる。正に規模の経済の影響である。

 もう一つの大きな変化は特徴のある「豆腐」が全国的に販売されることである。前述の「高野山ごま豆腐」や「南禅寺豆腐」などはその一例である。味もかなり特徴があり、ネーミングも、そして、形状も特徴がある商品と店頭で競争することになる。

 さて、このような状態で23代目の現当主はどうすべきなのか。旧来の豆腐だけでは到底戦えないので、「山のうなぎ」と言われる津山産の自然薯を入れた豆腐を開発し地域の店で販売することとしよう。課題はいくつもある。歴史ある屋号の片岡屋を強調して展開すべきか、あるいは、自然薯という新たなプロダクトブランドを強調すべきなのか。自然薯は鏡野町の杉山という農家が栽培していて独占的に供給してくれると仮定しよう。商品の魅力を強調するために杉山のイラストを入れたパッケージを考えているとしよう。400年を超える歴史がある片岡屋を強調するために創業天正8年片岡屋という名称を採用すべきなのだろうか。皆さんはどのようなブランド戦略を立てられるだろうか。

 今まで何度も繰り返してきたことだが、消費者は情報の洪水の中で暮らしている。このような状況の中で消費者に名称を記憶してもらい、加えて、購入してもらわなければならないのである。「獺祭」は「獺祭」であり、旭酒造株式会社まで覚えている人はほぼいない。「いいちこ」も「いいちこ」であり、三和酒類株式会社まで記憶している人もほぼいないことを再度確認しておきたい。

本誌:2014年10.6号 23ページ

PAGETOP