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 ご承知のように1985年にはプラザ合意がなされ1ドル250円前後だった交換レートは、一挙に1ドル150円前後の大幅な円高になった。前回の5億ドルという金額は250円レートで考えれば1250億円もの費用がかかったことになる。一旦消費者の記憶の中で認知された「ダットサン」という名前を「ニッサン」という名称に変えることに、いかに費用がかかるかを示す顕著な例であると考える。これからの時代、一国の市場だけではなくグローバル展開を見越したブランド名称の展開が必須であることは言うまでもない。この「ダットサン」が2014年に再復活する。どのようなブランド戦略を展開するのか注視したいと思っている。

 「ニッサン」と同じように世界戦略の中でブランドを変更したもう一つのケースがある。「明るいナショナル」で有名な松下電器産業は社名を全て「パナソニック」に変更した。「パナソニック」は「全ての」の意味の「PAN」と「音」を意味する「SONIC」からなる。1918年創業の松下電器が90年後に創業者の名称を冠した社名を捨て、1927年から使用し続けていた「ナショナル」も捨て去り、「パナソニック」に統合することになった。この大変革は当時の社長の大坪文雄氏により2008年1月10日に発表された。2008年6月の株主総会の承認を得て、2008年10月1日より「パナソニック」に一本化することになった。経営資源の集中化を図りブランド価値向上を目指したのである。発表の前月に創業者一族に事前に報告に行ったところ全員快く同意してくれたと言われている。

 もっとも、社名は変更しても創業者が制定した綱領を変更する訳ではなかった。当時の会長の中村邦夫氏も、アメリカでの経営の経験からブランドの変更の必要性を痛感していた。「パナソニック」は欧米で強く、「ナショナル」はアジアで強いブランドであったが、この戦略転換でグローバルに「パナソニック」に統合されることになった。しかし、中国だけは例外扱いとなった。中国では漢字表記以外認められないことと、松下電器の名称の知名度の高さから、グループ会社の中文社名については、「松下」を継続している。また中国での「パナソニック株式会社」の中国語表記は、「松下電器産業株式会社」としている。これは韓国のサムスンも同様で、「SAMSUNG」と漢字の「三星」を上手に使い分けている。

 「パナソニック」の社名変更およびブランドの統一に伴う費用は約300億円と発表されている。大坪社長は「ナショナルや松下の名前で投資した宣伝・広報活動の費用は約200億円。今後はパナソニックに全額投資すれば十分相殺できると考える」と述べている。

 これは恐らく低めの見積もりだと考えられるが、「ニッサン」の場合と比べてかなり低い。名称変更のコストが高いアメリカでは「パナソニック」がブランドとして浸透していたためにアメリカでは変更の費用がかからなかったこと、また、市場規模の大きい中国では従来通り「松下電器産業」としたことが経費節減の理由と考えられる。しかし、一旦消費者の記憶の中にインプットされた名称を変更するためには多額の費用がかかることは記憶しておきたい。

 ここでもう一つ読者の注意を喚起しておきたいのは、松下電器は長年「松下電器」「ナショナル」「パナソニック」の3つのブランドを使用してきたことである。実は、松下電器のような大企業でなくても、多くの中小企業が無意識の内に3~5くらいのブランド名を使用している場合が多くみられる。「パナソニック」や「ニッサン」のような大企業ならいざ知らず、自社の資源も限られている中小企業にとっては、このようなブランド名の分散は経営上大きなロスと考えるべきである。商標登録の問題をクリアし覚えやすい名称を見つけたら、一つに絞り込み集中してブランド戦略を展開すべきである。繰り返しになるが、ブランドを浸透させ売り上げを上げるためには一つのブランド名称に集中させる必要がある。

本誌:2014年9.1号 21ページ

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