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連載記事

知覚品質

 ブランドの棲家は消費者の頭の中であり、それを正確に理解することはなかなか困難であること、また、その調査をリサーチということ、そして、リサーチが如何に重要かを述べた。私がビジネスの世界からアカデミックの世界に移るきっかけを与えて下さった恩師はエリア・マーケティングを確立された故室井鐵衛先生である。GHQによる占領時代にアメリカの最先端のマーケティングを学ばれた方で日本の経営学の元祖の一人である。室井先生は「GHQは主要な政策決定は全てリサーチに基づいて判断をしており、このことはもっと強調されてよい」と述べられている。戦後多くのことをアメリカから学んだ日本であるが、どうもこのリサーチは本当の意味で根付いていないのではないか、それどころか最近リサーチを重要視しているのはビジネスではなく官邸だと感じているのは筆者だけであろうか。

 日本の経済を強くするためにはビジネスがリサーチの重要性を理解し、実践することが不可欠である。グローバル化の今日、標準化された手法で世界の消費者の動向を把握しなければ戦えない。「知彼知己、百戰不殆。不知彼而知己、一勝一負。 不知彼不知己、毎戰必殆」の孫子の戒めを思い起こすべきである。

 消費者が頭の中で描くあるブランドや商品(サービスを含む)についての品質は「知覚品質」と定義される。消費者が実際に商品を使ってみて判断する品質も大切なのであるが、実はブランドという観点から見れば知覚品質が最も重要である。知覚品質と対比される製品そのものの品質は大別すると「客観的品質(実際にその商品やブランドが提供する品質)」と「製造品質(仕様書にどれくらい忠実に製造されているかを示す品質)」に分けられる。

 客観的品質を示す典型的なデータは消費者センターが発表するようなデータである。車で言えば、例えば燃費、馬力、最高速度など客観的に判断できる品質を指す。製造品質は工場で仕様書に如何に忠実に製品が造られるかという品質を指す。ZD(Zero Defect)運動は仕様書と実際に製造された商品との品質のばらつきをゼロにしようとする運動を意味する。

 戦後繊維からスタートした日本の輸出産業は、ソニーやパナソニックに代表されるエレクトロニクス産業や、その後自動車産業への転換を遂げた。これらの耐久消費財は優れた客観的品質を持ち、かつ製品のばらつきが少なく製造品質もすぐれており、加えて、アメリカや欧州の製造した製品より圧倒的価格優位さがあった。結果、世界市場を席巻することになる。しかし、筆者が勤務していた資生堂のような化粧品産業は非耐久消費財の代表的企業であり、客観的品質よりイメージや文化を包含する情緒的価値が重要な産業である。資生堂の海外展開は1950年代台湾を皮切りにその後ハワイ、イタリアなど早くから展開を図ったが、海外展開は正に苦労の連続であった。理由は簡単である。製品品質の良さを理解してもらうのに思いの外時間がかかったのである。つまり、世界の消費者が抱いている「化粧品と言えばフランス」というイメージ(つまりこれが知覚品質なのであるが)を変化させ、日本製品も優れていることを伝えるのは難しく時間がかったと言うことである。

 しかし、トヨタ、ホンダ、ソニー、パナソニックなどが世界市場を席巻することで80年代半ば以降「メイドインジャパン」への強い信頼が生まれた。日本の耐久消費財の知覚品質が非耐久消費財に多大な恩恵を与えた。アニメやゲームの世界だけでなく「和食」が世界遺産になり2020年にオリンピックが東京で開催される頃には、日本製品全般の知覚品質を高め「クールジャパン」を推進する強力なドライバーとなる。

 非耐久消費財の分野において世界で認知されている日本ブランドは非常に少ない。世界のブランドを調査しているインターブランド社の調査によれば2013年度日本のブランドで100位入りしているブランドはトヨタ(10位)ホンダ(20位)キャノン(35位)ソニー(46位)日産(65位)任天堂(67位)パナソニック(68位)である。この日本のトップブランドに続くのがレクサス、東芝、ニコン、小松などである。非耐久消費財では資生堂、ユニチャーム、味の素、キッコーマンが500位以内に入っている。「クールジャパン」が一層浸透すれば客観的評価の難しい非耐久消費財のブランドが上位に入る可能性があると思っている。

本誌:2014年2.3号 17ページ

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