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痛みに効く薬がありました

 この夏96歳の誕生日を迎えた父の深刻な悩みは、体中どこであれ他人が少しでも触れると激痛が走ることでした。いや触れられなくてもベッドで横になっているだけで背中が痛み、「起こしてくれえー、起こしてくれえー」と深夜、早朝かまわず私を呼びます。寝不足の私はすっかり介護ノイローゼになりました。

 仕方なく、ベッドから起こして椅子に座らせても10分もしないうちに背中が再び痛み出し今度は「寝かせてくれえー」の連呼です。

 「お父さん、寝ていても痛いし、起きていても痛いんじゃどうしようもないじゃない。苦痛から解放されるためにはあの世に行くしかありません」と、腹立ちまぎれに父に冷たい言葉をかける私は鬼でした。

 医師も鎮痛薬や湿布をいろいろ処方してくれているのですが、どれもほとんど効き目がなく途方にくれる毎日。

 ところが昨年私自身腰痛に悩まされたとき整形外科の若い医師が処方してくれた薬に「リリカカプセル」という乙女チックな名前の薬がありました。この薬は今までの薬と作用機序が異なるそうです。痛みの場所に作用するのではなく脳内の痛みの情報を伝える場所での神経伝達物質の放出を抑制するというものです。いわば向精神薬の一種でしょう。

 私自身はリリカを最低量(25㎎)飲んだだけで幻覚症状が出たのですぐ服用を中止し、結局従来の鎮痛剤で腰痛が治ったのですが、今の父にはもうこれしかないという気がして父の主治医にリリカを試してほしいと願い出ました。

 期待以上の効果がありました。痛みを訴えることがぐっと減り、椅子に座って1時間以上テレビに集中しています。表情も明るくなり、楽しい会話が成立するようになりました。もはや親子心中しかない、とまで思い詰めていたのがうそみたいです。父が朝までぐっすり寝てくれるので私もよく寝られるようになりました。

 リリカカプセルはほかの薬同様様々な副作用があります。しかも高齢で腎不全の患者での治験データなど存在しないでしょう。そもそも父のような患者にこの薬が処方されることはありえないと思います。

 しかしあえてそこに突破口を開いて父の地獄の苦痛を取り除くことに成功したのは息子の蛮勇です。医学や介護の常識を超越した行為ですが。

本誌:2013年9.16号 12ページ

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