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永青文庫 細川家の名宝展

 岡山県立美術館で開催された永青文庫展は期間中展示替えがありました。最初(前期展示期間中)行ったときはお目当ての菱田春草の「黒き猫」が展示してなくちょっとがっかり。しかし今回の企画展は一度では十分見ることができないぐらい充実したものだったので再度出掛けて名宝をゆっくり堪能できよかったです。

 私が「黒き猫」に最初に出会ったのは中学校か高校の美術の教科書においてでした。ずっと実物を見てみたいと思いながら50年が過ぎ、このたび思いがけずこの岡山で願いがかないました。

 「黒き猫」、我が家のクロちゃんは雄の立派な猫ですが心優しくいつもほかの猫から身を一歩引いて餌を食べ、遠慮がちに私に甘えてきます。いつの時代でも黒猫は人間に何かを訴える特別な能力があるのかなと絵を見ながら思いました。

 本物の「黒き猫」は教科書などの図版では分からなかった猫の表情が生き生きと読みとれ美術館に来たかいがありました。「うちのクロちゃんの方が男前だな」などと思ったのは親ばかのせいでしょうか。

 さて細川家に伝わる美術工芸品の数々を収容した永青文庫は東京都文京区目白台の旧細川侯爵邸の中にあります。細川邸に接して和敬塾という男子学生寮があり、兄がそこに住んでいたので兄を訪ねていくとき細川邸をよくのぞき見したものですが、そこに念願の「黒き猫」があったなんてまったく知りませんでした。

 ちなみに和敬塾とはかつての細川邸のかなりの部分をある篤志家が購入して学生のために作った大規模な寮です。村上春樹の「ノルウェイの森」に和敬塾での学生生活の様子が生き生きと描かれています。

 戦後、学生用住宅事情が最悪だった時代に暖房完備の良質な寮建設のために広大な屋敷を提供した細川家の英断について語られることがあまりないのでここにご紹介しました。

 細川邸、和敬塾、田中(角栄)御殿、野間邸(講談社創業者一族)、椿山荘(ホテル)、日本女子大学、学習院、東京カテドラル教会、神田川、早大キャンパスとこのあたり一帯はかつての武蔵野の面影が色濃く残っている場所で、今もケヤキやクスノキの大木がうっそうと茂っています。しかし現在の東京の森の主人公は黒き猫ではなくカァカァやかましいカラスの大群です。

本誌:2013年9.2号 13ページ

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