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風俗と風土

 いわゆる慰安婦問題について大胆というか思慮に欠ける発言をして物議をかもした橋下大阪市長が東京の外国人記者クラブで会見を開きました。通訳をはさんで1時間以上の長丁場のやりとりでした。

 橋下さんと各国記者の間には最後まで埋められない溝が残っていました。東京や西欧のエリート記者は大阪という風土を知らないがゆえに、橋下さんの発言が耐え難く突拍子もないほど異様なものに感じられたのではないか、そんな気がします。

 記者の質問で飛び出してきた「飛田」とは“中学生でも知っている”現存の赤線地帯です。私も東京の大学を出て大阪の大学に就職したころ、何気なく友人と天王寺界隈を散歩していて知らないうちに飛田に迷い込んだことがあります。衝撃的でした。

 見たところ80歳ぐらいの遣り手ババア(それにしても下品な表現!)が三味線片手に流し目で「寄っていきー」と声をかけてくるのです。うぶな我々は一目散に逃げ出しました。

 飛田よりもさらにお手頃な料金で得難い体験をさせてくれるのが泉南の信太山(しのだやま)であることは普通の高校生でも知っていること。信太山には自衛隊の大規模な駐屯地があることでも有名です。

 大阪で暮らしはじめたころ、世間を騒がす事件の性質が東京と大阪で随分違うなと思いました。そのころ関東では幼女連続殺害事件に代表される性犯罪が多発していました。一方、大阪ではなぜかガス爆発事故が多く、他には豊田商事会長刺殺事件、三菱銀行北畠支店襲撃事件など金に絡む事件が頻繁に起きていました。猥雑な大阪なのになぜか凶悪性犯罪は少なかったのです。

 私が出した結論は、大阪では性にまつわることはタブーでもストレスでもなく飲み食いと同レベルの日常的営為であるのに対し、建前を優先させ官僚的思考が強い東京では抑圧された性衝動が性犯罪や猟奇的な犯罪を生み出すのではないか、です。

 橋下市長が当初発言していた「沖縄の海兵隊は風俗を利用せよ」という発言の下地にはこのような風俗と治安が折り合いをつけている大阪的発想法があったのではないでしょうか。ただそれを国際政治の場で発言したことは謎です。失言ではなく彼ならではの計算があってのことかもしれません。焼け太りということは政治の世界でもありえますから。

本誌:2013年6.10号 13ページ

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