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NTT商法

 午後7時、そろそろ父に夕食を食べさせようと思っていたら、足腰が立たずほぼ寝たきり状態になった父がベッドから「失禁しそうじゃ」と私を呼んでいます。腎不全でおしっこが出ない父の失禁とは「大」のほうでなかなか介助が大変です。あわててポータブルトイレを部屋に持ち込んで片手で重い父を抱きかかえ、パンツを降ろし便座に座らせホッとしたときインターホンがピンポン。

 受話器をとると「NTT何とかですが、何とかの用件で来たのでドアを開けてください」と言う。“ドアを開けろ”とは普段のセールスではなくNTTが何か重大な用件で来たのかと思い、父をトイレに座らせたまま玄関のドアを開けました。

 「本日は電話回線を高速光回線に取り替えることをお勧めに参りました。インターネットはご利用ですか?」と若い男がセールストークを始めたので私はぷっつん。「そんなもん、永久に取り換えん、さっさと帰らんか」と思わずぞんざいな口調で若者を追い返しました。

 男が退散したあとも私の怒り(というか八つ当たり)はますますヒートアップ。そうか、あの兄ちゃんを追い返したのは失敗だった、「あんたにこの家の惨状を見せたる。ちょっと上がってこい、親父をポータブルトイレから抱き起こすから手伝え! そうしたら光ファイバーを検討してもいい」と言ってやればよかった、と重い父を抱き上げ、パンツをはかせながら考えたものです。

 そもそも親の家に電話が入ったのは昭和40年代だったと記憶しています。妹尾電報電話局の電話回線は慢性不足で住宅用は申し込んでから3年待ちが常識でした。3年待って債権だか加入料だか7万2000円という親父の月給の2カ月分ぐらいの金を払ってやっと電話が開通しました。

 今度またNTTからセールス電話なりセールスマンが来たら「あのときの7万2000円を返してくれたら、光ファイバーを検討しましょう」と言ってやろうと思います。

 ちなみに長らく無人の館だった元の妹尾電報電話局の事務棟が最近工事を始めておしゃれな外観に変身しました。NTT関連のショップかなと思ったら何と、焼き肉屋がオープン。またしてもかつての公有財産がこんな情けない姿になって、とあきれてしまいました。何ともいいようのない怒りが収まりません。

本誌:2012年3.26号 13ページ

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