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世にも不思議な物語

 子どものころ「世にも不思議な物語」というアメリカ製の実話っぽい怪奇テレビドラマがありました。タイタニック号には進水時から不吉な前兆があった話や、天国に行った男の話など今でもよく覚えています。天国ではギャンブルは負け知らず、女性にはもてもて、すべて意のままです。しかし、ギャンブルや恋の結末が最初から分かっていては全然楽しくありません。そう、そこは天国という名の地獄だったのです。

 こんな話もありました。少年がある場所を通るとき、決まって体にかすかな電気のような衝撃を感じていました。ある日興味本位にいつものピリッと電気が走る場所で立ち止まります。すると少年は異次元の世界にワープしてしまいます。そこがあの世の入り口だったのですね。

 小学生のころ、いつも通る切り通しが私にとってそういう場所でした。学校帰りにそこでは決して立ち止まらないように注意したものです。学校と家の中間点にあるその切り通しにかかると今まで見えていた学校が見えなくなる一方、まだ我が家は視野に入ってきません。そこが危ない。学校と自宅という現実世界がともに見えなくなる場所で魔物は巧妙に現実の風景そっくりのセットを切り通しの向こう側に用意し、私を欺き誘拐しようとしている……。

 大人になってからはあまりこうしたシュールな恐怖感に苦しめられることはなくなりました。しかし先日の午後、久しぶりにマンションの部屋を片付けていたときのことです。戸棚から昔買った高級ウイスキーが出てきたのでストレートでコップ3分の1ほど飲みました。久しぶりの酒はよく効きます。

 夕方には2㎞ほど離れた実家に帰って両親の食事の世話や痰の吸引をしなければならないというのに酒が入っていては車の運転ができません。結局タクシーで移動したような気がするのですが……。

 確かに実家で両親に夕食も食べさせたのに何か変です。醒めることのない夢の中にいるような気分。本当は車を運転して事故ったのでは? 自分はあの日死んでしまったのではないか、今本当に生きているのかどうかどうやったら確かめられるのだろう。今こうして生きているつもりの私は現実の自分なのか。よく分からない……。よく分からないのに税金の確定申告書なんか作っています。

本誌:2012年3.12号 12ページ

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