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カラスの「おカツ」

 例年、年が明けて県北の里山が雪に覆われるころカラスが県南に移動してきます。ちょうどそのころ渋柿の渋が抜けて甘くなるのをカラスはよく知っています。ところが今年はまだ11月というのにカラスがどこからともなく集まって我が家の近くでもやかましく騒いでいます。村里に出てくるクマ同様山ではエサが不足しているのでしょう。

 いつお迎えがきてもおかしくない高齢の両親の介護をしている私にとって、家の周りにヒッチコックの「鳥」のようにカラスが集まっているのを見るのは心穏やかではありません。石を投げるふりをしておどしてもそんなものは最初からバカにして逃げるそぶりもみせません。

 私がまだ小学校に行くかどうかというころ家でカラスを飼っていたことがあります。カラスの子が洗濯竿に止まっていたのを父が餌付けしたのです。父は「おカツ」という名前を付けました。川で釣ってきたフナやハエをおカツにやるとおカツはすぐには全部を食べないで土に穴を掘って上手に隠していました。

 父が逃げないように片足をひもでくくってみたのですがひもを解くなど朝飯前。そこで結び方を変えてくちばしで引っ張ると余計ひもが締まるようにしてもそんな人間の小細工などすぐに見破ってちゃんと解いてしまうのにはすっかり感心しました。

 昼間おカツは近所で遊んでいたようです。ある日同じ村内の人から苦情がきました。「うちには病人がいて病状も思わしくないのに朝っぱらからお宅のカラスがやってきて軒先でカァカァ啼く。まったく縁起でもない」。ほどなくその家から葬式が出たところを見るとカラスにはやはり予知能力があると思います。

 成長して手に負えなくなったのか近所の苦情のせいか父はおカツを自然に返すことにしました。おカツを自転車に乗せて3㎞ほど離れた林の中で放鳥しやれやれと思って家に帰ったらおカツの方が先に帰っていて家じゅう大笑いになりました。その後おカツが家にずっといた記憶もないので結局は野生に戻っていったのでしょう。

 93歳になった父は今でもおカツのことを思い出しては「カラスはかわいい」と言いつつも「いったん人の臭いが身についたカラスは仲間外れにされる、おカツは無事野生に戻ったかどうか」と心配しています。

本誌:2010年12.6号 16ページ

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