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早春の歳時記

 実家周辺には至る所リュウノヒゲが自生しています。スズランの仲間で初夏に白い花を咲かせ、晩秋に深い青色の真珠のような実をつけます。岡山での俗称は「くす玉」です。

 2年ほど前、畑のあぜにあった大きな株を抜いて花壇の縁どりに植えました。大して手もかからず、肥料をやらなくてもどんどん株が増えるのはいいのですが、手入れを怠ると黒髪に白髪が交じるように緑の葉に黄色く枯れた葉が混じり貧乏くさくなります。

 暖かな2月末の午後、枯れた葉を一本一本抜いてやることにしました。気の遠くなるようなエンドレスの作業ながら何か楽しい。

 花壇の縁に腰をおろし、早春の優しい日の光を浴びながら枯葉を抜いていると、いつも何かに追われるようにセカセカしているのが嘘みたいに心が静まります。頭脳は休止状態なのに指だけが動いていきます。

 この数年、両親の介護がいよいよ精神的にも体力的にも限界に近づいて心に余裕がなく、自然をゆっくり眺めることも、自然とともに時を過ごすこともなくなっていました。心が次第に枯れてしまっていたようです。

 ところがリュウノヒゲの白髪抜きをきっかけに、少し庭の手入れをしてみようという気になり、きょうは枝が伸び放題に伸び、道路にまではみ出てしまった柿の大木の剪定をしました。

 青空に根を張ったような格好の柿の木に梯子をかけ、屋根より高い場所でパチンパチンと枝を切っていきます。子供のころ父がいつも「柿の木はさけーけー、落ちたら死ぬでー」とよく言っていました。柿の木は裂けやすいから要注意という意味ですが、いちいちうるさい干渉に腹を立てて、私は「落ちたりすりゃーせん」と怒っていたものです。

 今や、超高齢の父は家の外に出てきて還暦を過ぎた息子の庭作業を干渉することもなく、テレビでオリンピックを退屈そうに見ています。

 今年も春、夏、秋を無事に過ごしやがて晩秋になって柿の実を収穫するころ、また親父の「柿の木はさけーけー…」という説教が聞けたらと思います。

本誌:2010年3.8号 12ページ

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