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「人生の複雑さに耐える」

 もう10年近く高齢の両親の後見役をしてきてつくづく社会の複雑さに頭を痛めています。確定申告、年金、健康保険、特定疾患医療受給者証の更新、介護保険、車検、おまけに今年は定額給付金の支給までありました。

 どれひとつ処理するにしても、公的な身分証明書やら医師の診断書など複数の書類を用意しなければコトは進まないし、親の銀行口座から生活費を引き出そうとすると、銀行は親子の関係を証明する書類として戸籍謄本まで要求しました。

 現代社会の最大の特徴は、社会も人生も複雑きわまりない、の一言に要約されると思います。そして私には人生の複雑さに耐える力が身についていないことを痛感するのです。

 美智子皇后さまが1998年9月ニューデリーで行われた国際児童図書評議会(IBBY)のためにビデオ録画で「橋をかける―子供時代の読書の思い出」と題し、とても印象的なお話をされました。その中で美智子さまは子供が読書の習慣を身につける意義のひとつとして、「子供達が人生の複雑さに耐える」力を養うことを挙げられていました。

 この言葉には本当に感動しました。それまで児童図書の存在理由について美智子さまのような見方があることなど想像もしていませんでした。人生は複雑だし、我々はその複雑さに耐えていかなければならない。おそらく長い日本の歴史でもっとも人生の複雑さに耐えてこられたのが美智子皇后でしょう。説得力があります。

 皇后の苦悩に比べれば役所の手続きが苦痛などとは言っておられません。とりあえず今日は特定疾患医療受給者証の更新に必要な書類を手配しよう。そして明日は父の車を車検に出し、遅ればせながら税務署で両親の確定申告を…。

 「橋をかける」は現在、文春文庫版が入手可能です。

本誌:2009年7.13号 14ページ

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