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ムサシの家出

 雄猫ムサシが我が家にやって来たのは昨年の正月、松の内が明けたころでした。庭でニャーと鳴いてすり寄って来ては家に入れてくれとせがむのです。

 何だか馴れ馴れしいし、ちょうどその時は捨て猫のミーシャを飼い始めたばかりだったので一応追い払ったのですが、夜になっても翌日になってもテコでも動きません。背中には大きな生傷がありました。

 よく見るとなかなかハンサムな猫。さぞ飼い主は心配していることだろうと思い、村中のごみステーションに写真付きポスターを張ってみたのですが、なしのつぶてでした。

 以来、ミーシャと共に私にとって2匹の猫は、楽しい時も悲しい時もいつもそばにいてくれるいわば人生のパートナー、永遠に家にいてくれるものとばかり信じていました。

 ところが安倍首相が政権を投げ出した日、いつものように「ムサシ、ドライブに行こう!」と闇夜に向かって呼び掛けても出てきません。最初は明日朝にはご飯を食べに帰って来るだろう、と大して気にもとめていませんでしたが、2日、3日、1週間と日が経つにつれムサシの家出は、家に来た時と同様、堅い意志のもとでの決行だったとしか考えられないようになってきました。

 あまりにあっけないムサシとの楽しい日々の終焉。私のいつわりのない気持ちは「ムサシに捨てられてしまった、別れの言葉ひとつなく」です。

 猫を捨てる話はあっても、猫に捨てられるなんて情けない。村中朝昼晩「ムサシ、ムサシ」と空しく探すのにも疲れてきました。

 お願いだから帰ってきておくれ、いつものように窓越しの塀の上から「おっちゃん、ドライブに行こう!」と誘っておくれ。

本誌:2007年10.8号 14ページ

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