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リハーサル

 2001年に始まった母の在宅介護もまる5年になりました。パーキンソン病に認知症を併発、そして87歳ともなると、あまり言葉を発しなくなったのが何よりも寂しいことです。

 ほんの2、3年前までは、ヒヨコに「モサ」「オットリ」などと名前を付けてくれたり、病院に行く途中、交番の電光掲示板に「暴力団No!」と表示されているのを見て、「暴力団ナンバーワン」と読んで笑わせてくれたり。

 ある日の夜、母をベッドに寝かせて私は自宅マンションに帰ろうとしたら母は私を呼び止めて、「いろいろありがとう。みんな仲良くしていくんですよ」と言う。

 不吉な言葉に驚いて私が「お母さん、まるで今際の言葉みたいで気色悪いじゃない」と言ったら、「いや、ちょっと練習していたところだ」と微笑んですぐ寝てしまいました。

 そんな母が8月初め、ついに恐れていた誤嚥を起こし緊急入院。幸い適切な処置がなされ、2、3日で帰宅できるものと思っていたら、案外長引き、今は近所の病院に転院していつのまにか9月になりました。

 思わぬ母の異変に伴いちょっと当惑していることがあります。実は前々から今週末は気分転換に札幌に行く予定を立てていたのです。が、父は「親が死にかけているのに札幌に遊びに行くのか」などと不安と不満を表明。

 私としたら、母が無事退院したら今度は24時間付き添わなければならず、出掛けるのは今のうち、という気持ちもあります。

 しかしながら、母がリハーサルまでして備えてきた一世一代の大舞台に間に合わないようなことがもしあれば母に申し訳がたたないので、札幌行きはあっさり見送る事にしました。

本誌:2006年9.11号 12ページ

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