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春の雪

 三島由紀夫原作の「春の雪」が封切りになり、さっそく見に行きました。時代は大正元年、渋谷郊外に14万坪の大邸宅を構える松枝侯爵邸。庭園内にある池でボート遊びに興じる今年18歳になった嫡子・清顕とその学友・本田の会話シーンから映画は始まります。

 ちなみにこの撮影に使われた庭園は香川県の栗林公園。やはり香川県庵治町で撮影された「世界の中心で、愛を叫ぶ」の行定勲監督作品です。

 物語は、清顕と幼なじみで2歳年上の伯爵家令嬢、綾倉聡子との悲劇的な恋があっという間に不幸な結末を迎えるという短い話ですが、映画は2時間半の長編ながら退屈させません。

 「春の雪」のように、原作それ自体が視覚的な作品を映画化するのはなかなか難しいのに、行定監督は原作のイメージを損なうことなく映像化に成功。

 とりわけ聡子の乳母・蓼科(たでしな)という老女の「ひどく丁重で、礼儀と恭しさの固まりのように見えながら、あたかも何千年もつづいた古い娼家の主のような、官能の煮凝りをその皺の一つ一つに象嵌した風情」(新潮文庫版87頁)は原作イメージそのままに演出されていて、この純愛劇に見えてそうでない禍々しい恋愛劇を第一級の娯楽作品に仕上げていました。

 原作を読み返した上でもう一度映画館に足を運びたい作品です。

本誌:2005年11.7号 13ページ

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