WEB VISION OKAYAMA

連載記事

「火垂」(ほたる)

 6月初め、中学校時代の恩師と友人7人でホタルを見る会を催しました。場所は吉備高原都市のさらに北に位置する御津郡加茂川町。夜8時ごろから9時ごろがもっともたくさんのホタルが出るということなので、一時のあいだ、持参した弁当とビールでにわかミニ同窓会を楽しみました。

 先生は一回りしか違わないのでいまではパッと見、だれが生徒か先生か判別はむずかしい。その割には中学校を出て40年も過ぎたという現実感も希薄で、中学生のままの我々が理科の先生に伴われて自然観察に来ているような錯覚にとらわれます。

 そろそろホタルが出るころだ、というので川筋に出てみると、想像をはるかに超えた幻想的な光景が眼前にひろがっていました。「光のページェント」などという陳腐な言葉では表現できない、なにか不思議な感覚です。

 美しくも儚く、もの悲しい気配さえ漂っていて、古来日本人がホタルに「火垂」という字を当てた気持が分かるような気がしました。野坂昭如原作アニメ「火垂るの墓」で涙を流した人は多いのではないでしょうか。

 ちなみに、日本人の美意識や精神性と結びついたホタルも英語ではfirefly(火のハエ)とまことに情緒に欠ける名前をいただいています。

 それはさておき、子供時代のクラスメートが恩師を囲んで乱舞するホタルに見入っている。A day in the life. 人生のひととき。これを至福の時と呼ばずして何と呼んだらいいでしょうか。(康)

本誌:2004年6.11号 20ページ

PAGETOP